悪くも
熱い人。
それが、夫。
矛先が私に向けばそれは災難なんだけれど
熱く語る彼はそれもステキだったりする。
もともと道理なんてある人じゃないから、
はちゃめちゃなんだけれど、
憎みきれないところがある。
子供を前に声を震わせながら、自分が日本に来てから、どれだけ苦労をしてきたか、どういう仕事をしてきたかを、どれだけお前たちを愛しているかを語ったことがある。
子供に熱く語れないでいる私には真似できない。
ダンプのタイヤがパンクをしている人を見かけて、遅くまで手伝って帰宅したこともある。
結婚したばかりのころ、アパートの周りをうろつく野良ねこがいた。
首に巻かれた紐は喉に食い込んで、そのまわりの皮膚はこすれて、毛も抜けていて、膿んでいたので、近くに来ただけでも悪臭がひどくって・・・・
かわいそうだと餌をあげた私。
太ればよけいにその紐が喉に食い込むことなど思いもしなかった。
夫は人に慣れないその猫を、逃げ惑うその臭い猫を捕まえて、はさみでその紐を切ってやった。
そして、以前に探しておいた、車どおりのない別の住処に猫を連れて行った。
彼のやることは筋が通っていないから、
いろんなものが混在している。
でも、それが魅力でもある。
そして、
ある日、夫は自転車泥棒を捕まえた。
車には長男と長女と私だけ。
自転車を盗んだ少年の進路を車でふさいだ。
長男に言った。
”お前の自転車が取られたんだ。自分で取り返せ”
車から降りた息子は自分より背の高い、けれどメガネをかけた気の弱そうな少年の胸元を掴んだ。
夫が車の中から、あの国の言葉で、長男に言った。
”殴れ、殴れ、殴れ”
そんなことをいわれても・・・・殴れないよと長男の戸惑いが、車の中の私には、見てとれる。
だって少年はあんなに、謝ってるんだもの・・・殴れるわけないじゃない。
夫が車から勢いよく降り立った。
民族衣装が風に翻る。
畑の続く細い道だった。
いきなり夫は少年を思いっきり平手でびんたした。
うずくまり謝る少年の背中にも蹴りを入れた。
そして、長男に向き直り、
長男にも思いっきりびんたを食らわせた。
”お前の自転車が盗まれてなんで怒らない!なんで殴らない!お前の自転車はお前が取り戻さなきゃならないんだ!”
あ然とする長男。
少年はさらに謝った。
”僕が悪いんです。僕を殴ってください。僕のために殴られてごめんなさい”
土下座までして謝る少年。
けれど、何度も夫が脅しても、彼は自分の名前と住所を言わなかった。
本当はこんなことしたくない・・・そう、それは本心だった・・・夫はしぶしぶ警察に電話を入れた。
だから、警察が来るまでの間に、夫は少年に話し掛けた。
どうして盗んだの?
疲れるから。
神様は君に二本の足をくれたんだよ。疲れてもいいから歩きなさい。盗むんじゃない。今日捕まったのは君のためになるんだよ。痛い思いさせちゃったけれど、でもとても大事なことなんだ。
私も殴られた長男も長女もその話を聞きながらじ~~~んとなっていた。
だから、この言葉が少年の心にも響いたのだと思っていた。
少年もじっと話を聞いていた。
夫が突然言った。
いいよ、もう行っていいよ・・・警察にはオレが言っておくから、早く行けよ。自転車はやるから
少年が言った。
いいえ、自転車は返します。僕が返します。
でも。。。。
自転車は返って来なかったんだけれど。。。。
”あの野郎、今度見かけたらただじゃおかないからな!!!”と夫は息巻いていたりしたんだけれど、
彼が自転車を返すために我が家の方向に自転車で坂道を登っていた時に、
偶然にも到着したばかりの警察官。
夫も念じていたに決まってる”そのまま通り過ぎろ”って。
私には
長い坂道なのに警察官とすれ違う時に、
さらにペダルを強く踏み、
スピードを上げ、
顔を上気させる、
彼が”もうしません”と心に誓い、
警察官の脇をすり抜ける、
息使いが聞こえたようなそんな気がした・・・
私が見たように感じた、その時の彼の様子を伝えると
”馬鹿だよな、アイツ。もう盗みをしないといいな”と
つぶやきながら、運転をする夫がいた。
やってることめちゃくちゃなんだけれど、
そういうところに惹かれてるみたい。
このまま悪口オンパレードでブログを終わらせちゃうのも淋しいかな・・・という思いで書いてみました。
(関係が安定している時にしか書けないので・・・期間限定です)