夫が連れてきたにわとりはコッコちゃんと名をつけられた。

 

食べるために連れてきたのだけれど、

 

 

”年を取っているから、肉が固そうだね”の

 

 

一言で我が家のペットになった。

 

 

 

閑静な住宅密集地でにわとりを飼うという非常識。

 

 

 

 

でも

 

でも

 

手のひらから

 

ついばんでくれた。

 

大量のえさは10キログラムの大袋入り。

 

その姿がとても愛らしい・・・。

 

 

 

小屋がないから、

 

足にビニール紐を結んで

 

時には物干しに

 

時には玄関の木に

 

場所を替え

 

ねこが襲撃に来ても逃げられるように

 

長めの紐で結わえていた。

 

 

 

何日かたち、

 

ここが我が家だと気を許してくれたコッコちゃんは

 

早朝、

 

物置の屋根の上から

 

裏の鈴木さんに文句を言われるのは必至だというのに、

 

気持ちよく

 

鳴いた。

 

 

 

だから・・・・

 

考えた。

 

朝、コッコちゃんを鳴かさないための策を。

 

玄関にいるコッコちゃんに夜大きめのダンボールをかぶせた。

 

朝の光が差し込まなければ、

 

朝がきたことをコッコちゃんに

 

知らせなければ、

 

彼は鳴かないはずだ・・・・。

 

それでも鳴いたのだけれど・・・

 

外で鳴かれるよりはよっぽどましだった。

 

ご近所迷惑にはならない程度にはなっていた。

 

 

 

日曜の朝だった。

 

前日の土曜日は仕事で遅く帰宅した夫。

 

午前九時ごろだったろうか・・・もういいだろう・・・

 

ダンボールの下でもぞもぞ動く、すでに起きているコッコちゃんを

 

光に当ててあげたかった。

 

 

彼は鳴く。

 

気持ちよく・・・・

 

 

 

 

 

そして夫が起きてきた。

 

突然言った。

 

「お湯を沸かして。よく切れる包丁を持って来て」

 

止められなかった。

 

止めることもできなかった。

 

自分に言い聞かせるように、

 

嫌がる子供をなだめながら、

 

あなたのやっていることに私は動揺していないのよ・・・と

 

見せつけるように

 

感情を抑えて

 

にわとりの足を握っていた。

 

 

心を許してくれたコッコちゃんの

 

首に夫は刃を当てた。

 

 

苦しがるコッコちゃんを

 

大事なコッコちゃんを

 

殺されるのをまじかで見ながら、

 

頭の中で繰り返し詫びながら、

 

「肉はこうやって動物の命を犠牲にして・・・・・・」と

 

子供たちに説明しながら、

 

「だから、食べ物を粗末にすることは・・・・・・・」と

 

言い聞かせながら、

 

自分の哀しみを

 

悟られてはいけないと

 

夫にも子供にも

 

ただそれだけを考えながら、

 

固くなっていく

 

コッコちゃんを

 

手全体で感じていた・・・。

 

 

猫の額ほどの小さな庭に

 

染みこむ

 

コッコちゃんの血

 

ふわふわの羽を

 

ゴミ袋につめこんだ。

 

 

 

肉を解体する私。

 

冷凍庫には

 

どこの△ちゃんかわからないけれど、

 

袋詰めにされた鶏肉が詰まっている。

 

 

命を犠牲にしたコッコちゃんだから、

 

大事においしく調理しなければならないのに、

 

味見もできないほど憔悴していたのは

 

私だった。

 

 

一口も口をつけることなく・・・

 

彼らは”固い”と文句を言いながら、

 

私の、みんなの大事なペットを

 

食べていた。