勃発のきっかけは、

冷蔵庫に入れておいた ちくわ を末の妹が勝手に使ったこと。


その時の家族構成は、


私たち家族7人に


義理の母と、妹と、末の妹と、義理の弟 の計11人。


時は、私が小学校のPTAで、お昼の時間に間に合わなくて、かといってめっきり姿を消してしまった、公衆電話を探すよりは、自宅へ直行した方が、絶対合理的だと判断した頃だった。




家の前に自転車を止めると、


台所から彼女たちの話し声。


いまだ帰らない私のために、彼女たちは家にあるものを物色し、何かを作ってくれていた。



玉ねぎをスライスし、しょうがとにんにくとししとうを石臼に入れて、木の棒で砕いて、油たっぷりで炒めたところにトマトの缶詰めを加え、スパイスを入れ・・・ジャガイモとキャベツとニンジンとシーチキンとグリーンピースを入れたまでは、まあ、認めよう。

シーチキンは貴重な蛋白源だから、”そんなヘンテコな料理に入れてほしくないんだけど”と、

ちょっと頭にきたのだけれど、

まだこの段階では黙っていられたのだけれど・・・




何で、ちくわ を入れるかな???


私の不満はこれだった。





女王様を気取っている末の妹に聞いた。

「これなんだか知ってるの?」

 

こんな口の利き方をしたことのない兄嫁を、怪訝に思いながらも、彼女は答えた。

「知らない」




ほらね・・・・・


「知らないものを何で使うの?」


少し押さえ気味に言う。


視界の端には、一缶ではなく、何缶も開けられたシーチキンの空き缶がある。


私のシーチキンを・・・・・と思いながらも、彼女の答えを待つ。


「だって、冷蔵庫に入ってたから」





ほらね・・・


「入ってたらなんだかわからなくても使うの???」


その日の私は強気だった。


なんでだろう?


やっぱりシーチキンの無駄使いが怒りに火をつけたのだろうか?


たまりにたまったストレスのせいだったのだろうか?




女王さまの妹が切り返す。


「使っちゃいけないものが、何で冷蔵庫に入ってるわけ?」


他の女性二人もうなずく。




ふ~ん、そうきたか・・・

さすがだね・・・・

あなたに勝つには私の修行が足らない。



「じゃ、作れば。私、絶対食べないから。ちくわ入りのカレーなんて食べないから!」




台所を出た私。


勝手に作れば・・・・


あ~シーチキンが・・・・私のシーチキンが・・・もったいない・・・・




彼女たちは炊き上がったご飯とそのちくわ入りカレーをご飯に混ぜてピラフ状にしたかったんだろうけれど、炊飯器で、大量に炊き上がったご飯は、芯が残っているのに、外側がぐちゃぐちゃのご飯だった。


ほらね・・・




おなかを減らした夫と義理の弟の到着に間に合った、ぐちゃぐちゃヘンテコちくわ入りカレー混ぜご飯を夫には食べさせられない。だって・・・彼はとっても味にうるさい人だから。


玄関口の夫に耳打ちした。


「妹たちがとんでもないもの作っちゃたのよ。絶対に食べられないから・・・。今から買い物にすぐ連れて行って。私たちの分だけでも作るから」とそのまま外に連れ出した。


車中でことのあらましを伝える私は、今日のお昼はパスタにしようと決めていた。




帰宅して、食卓を囲む彼ら。


私はパスタをゆでるために台所に立つ。


夫も食卓に座っている。


ビスミッラー・・・・・彼らは食事を始めた。


無言で食べる彼ら、それはそうだろう。


夫をはじめ彼らは味にはうるさいのだから。




台所でパスタをゆでる私に夫が言った。



「アイシャ来てごらん。おいしいよ。食べてごらんよ。ちょっと辛いけれどおいしいよ」と夫は私を見ながら、

”おいしい”を連発する。



ふ~~ん。あんたの味覚は一体どこに行ってしまったんだい????



ちょっとの塩加減でも、とってもとっても味にうるさい夫は、それを、食べて私に見せた。


そして子供たちは辛そうに食べていた。




だったら、全部食べてね! 私、食べないから・・・

 



この戦争、彼らのプライド勝ちで、いつものお決まりの私の負けかと思いきや・・・・・



実は彼らも辛かったらしく・・・・



マズイという言葉を私は耳にすることはなかったのだけれど、


「でも、ご飯がちょっと・・・ニンジンがちょっと・・・・辛いかな・・・・・」と云うひそひそ声は、


一人パスタを食す私の耳にはしっかりと入っていた。




大量のそれらは、夕飯には誰も手をつけることもなく、


「え?食べないの?」と私に冷たい言葉を投げかけられても、


彼らは苦笑いをするだけで・・・・


私が夕飯を作ってあげました。




それ以降、私が台所の実権を握ったことで、この戦いは終わったのでした。


余計なことはしないでね・・・・女王さま・・・