「水源」167ページ下段 より引用開始

ハワード・ロークは自分の設計事務所を開いた。古いビルの最上階にある広い1室である。大きな窓がひとつあり、家々の屋根を高く見下ろしている。事務所の窓の手すりから、ハドソン河が遠く帯状に見える。ロークが窓ガラスに指を押しつけると、指の下を河をすすむ船の小さな航跡が縞のように見える。
***中略***
「水源」169ページ下段 より引用開始

ロークの事務所に来た最初の訪問者は、ピーター・キーティングだった。キーティングは、ある日の昼に、ことわりもなしにやってきて、部屋をつっきって、ロークの机の上にこしをおろした。陽気に微笑みながら、部屋をさっとはらうように両腕を大きく広げながら。
「さて、さて、ハワード!大したものだな!」とキーティングは言う。
キーティングは、1年ほどロークに会っていなかった。
「やあ、キーティング」とロークは答える。
「君自身の事務所だぜ!君自身の名前で、何もかも君自身のものだ!もう、すでにして!すごいじゃないか!」
「ピーター、誰に聞いた?」

引用終わり

「水源」166ページ下段 より引用開始

「君はいくつだ。紹介はあとにして、ともかく君はいくつだ?」と、ヘラーは聞く。
「26歳です。他にお尋ねになりたいことがありますか?」
「いや、ない。ここにすべてある、このポケットにね。君の名前は?」
「ハワード・ロークです」
ヘラーは、小切手帳を取り出す。テーブルの上にそれを広げ、万年筆を捜す。
「いいかい」と、金額を書き込みながら、ヘラーは言う。
「500ドルを支払う。まず、自分の事務所を開きたまえ。そのほか、君が必要としているものは何でも。それから仕事にとりかかりってくれ」
ヘラーは小切手を切り離すと、それをロークに渡す、まっすぐな指の間にはさみ、ひじをテーブルについて、身を傾けながら、丸く曲線を描きながら手首を揺らしている。
愉快そうに、不思議そうにロークを見つめながら、ヘラーの目は細くなる。その動作は、挨拶の雰囲気を帯びてもいる。
その小切手のあて先は、「ハワード・ローク、建築家」となっていた。

引用終わり

「水源」165ページ上段 より引用開始

ロークは、ほんの一瞬、1度だけ頭を振り上げ、テーブル越しにヘラーを見つめる。それが二人が必要とした自己紹介の動作のすべてだった。それは握手のようなものだった。ロークは、書き直し作業を続ける。ついに直しを終えて鉛筆を置いたとき、その邸宅図は、最初にロークが設計したとおりに、黒い線でできた秩序だったパターンで完成されていた。この作業は5分とかからなかった。
スナイトは声を発しようと試みる。ヘラーが何も言わないので、ロークを攻め立てていいのだと感じて怒鳴る。「君はクビだ、馬鹿門!ここから出て行け!クビだ!」「我々は両方ともクビだな」とロークにウインクしながら、オースティン・ヘラーは言う。「来たまえ。昼食は食べたかね?どこかへ行こう。君と話がしたい」

引用終わり