駅に着き、大輔と別れて改札へ向かった


時計を見ると、いつも駅に着く時間


カバンの中からパスを出そうとすると、券売機の前で上を見たり券売機を見たり、券売機に近づいては離れるという行動をしている人物が目に入った


変な人

と思い、通り過ぎようとするが、改札をくぐる前にちらりと再び見てみると、見覚えのある人物だった


「梶くん!」

後輩の梶は、自分を呼ぶ声にキョロキョロと周りを見渡す


改札から離れて近づいていくと

「せんぱぁい!」

と叫びながら、小走りで寄ってきて無言で肩を掴み、潤んだ瞳で見つめてきた


「何してたの?電車来るよ」

と言うと、潤んだ瞳がさらに水分を増す

「パス、忘れたんです」

「だったら、切符買えば?」

今にも大きな瞳から雫がこぼれそうな様子を見ながら、あっさりと返した


すると、見つめていた顔は黙って下を向く


「もしかして、財布も忘れたの?」

下を向いていた頭はさらに深く垂れてしまった


「もう、しょうがないなぁ…」

と言いながらカバンから財布を取り出すと、俯いていた顔がとたんに上がる


だが、次の瞬間

『ギュゥゥゥゥゥッ!』

と、不思議な音が聞こえてきた


財布から梶の方に目をやると、真っ赤な顔でお腹を押さえている


「もしかして、朝ご飯食べてない?」

問い掛けに、無言で恥ずかしそうに顔を背けた


財布を取り出すために開けられているカバンの口から、兄が渡してくれた巾着袋が覗く


青い巾着に手を伸ばし、中にあるおむすびの数を確認した


おむすびは三個


笑顔で

『いってらっしゃい』

と言った兄の顔が浮かび、少し罪悪感に似たものはあったが、さすがに三個は食べられない


財布から5千円札を取り出し、カバンからはおむすびを一つ取り出す


「これくらいあれば、往復の切符代と朝とお昼のご飯代にはなるでしよ?それと私の朝ご飯分けてあげるから、ありがたく思いなさい」

そう言ってお金とおむすびを差し出すと、キラキラと輝く笑顔で

「先輩、ありがとうございます!」

と言って、お金とおむすびを持つ手をぎゅっと握ってきた


「もう良いから、早く切符買ってこないと電車きちゃうよ」

切符を買うことを促すと

「はあい!」

と良い返事をして、券売機に走っていった





無事に梶が切符を買い、電車に乗り込んだは良いが、通勤通学時間で満員の車内


毎朝のことは言え、この息苦しさは否めない


カバンを抱え、片方の手で吊り革を掴んでいるが、手が疲れてくる


持ちかえたいなぁ

と思っていると、何だか腰のあたりに温かいものを感じた


始めは、隣に立つ梶の手でも当たっているのだと思い、気にも止めなかった


しかし、それは腰から下へと降りてくる


えっ!

思わず梶を見上げるが、梶は吊り革に両手をかけ、窮屈な体勢に顔を歪めていた


梶の手ではないなら、これはもしかして『痴漢』という考えが浮かぶ


痴漢だと思うと、声を上げることも出来ず、隣の梶に助けを求めることも出来ない


気付いてくれないかと梶を見上げても、気付くどころか自分の立ち位置を確保しているだけで精一杯のようだ


どうしよう……


もう恐怖で涙が出そうだった時、電車が大きく揺れて止まる


駅に着き、ドアが開くと乗降で人の動きが出来、その手は人目を避けるように放された


ほっと胸を撫で下ろした時

「おい、あんた!」

と、後ろで声がして、自分に話し掛けられたのかと思い振り替える


するとそこには中年のサラリーマン風の男の腕を後ろ手に捻り上げ、後ろからその男の肩を掴んで動けないようにしている先輩の森久保がいた


「森久保さん!」

と声を上げると、目線だけこちらに向けて

「よう!」

と短く言う


そして、押さえ込んでいる男に向かい

「あんた今、こいつのこと触ってただろ」

と、険しい表情で問いただす


男はさほど慌てる様子も無く

「何言ってるんだ!」

と怒鳴った


しかし、森久保はそれに怯むこともなく

「俺は見てたんだよ!」

と返すのだった


その言葉に、一瞬男の眉がピクリと動いた気がする


だが男はこちらを見て

「この子が私が触っていたと言っているわけではないのだろ!お前が見ていたと言っても、真横で見ていたわけではないんだろ?」

と、あくまでもシラをきる


真横で見ていたわけではない

という言葉に、少し森久保はたじろぐ


男は自分の横に森久保がいなかったことを覚えていたのだ


「そんなこと言っても、見てたものは見てたんだよ!お前も触ってたのがこいつだって言ってやれ!」

と言われるが、怖くて痴漢の相手が誰なのかなど、確認できるはずもない


答えることが出来ずに俯くと、男は満足そうに

「ほら!」

と言い

「私が触っていたという証拠も無いのに、言い掛かりもいいところだ!」

と憤慨する


それから森久保の手を振り払い、窮屈な車内の人を掻き分け隣の車両に移動してしまった



男が去り、ため息混じりに

「お前なぁ……」

と言って横に立つ


「俺が見てたって言ってるんだから、嘘でも、こいつに触られてた!くらい言えよ」

そう言われても、触られていた恐怖でそこまで頭は回らなかった


言い返す言葉もなく、ただ俯く


痴漢にあい、怖い思いをしたのに、何故怒られなければいけないのだろう

そんなことさえ思い、痴漢を捕まえてくれた森久保に感謝することを忘れていた


ただただ黙って俯く様子に、再び森久保はため息をつき

「そうだよなぁ、怖かったよなぁ。嘘吐く余裕なんて無いよな」

と言い、優しく頭を撫でてくる


痴漢を捕まえてくれた礼も言っていないことを怒ることもせず、優しく接してくれることが嬉しかった


横に立つ梶が

「気付かなくてすみません」

と、申し訳なさそうな顔をした


「そうだぞ、梶!お前が気付いてやれよ!」

と、森久保は言い、2人に守られるように目的の駅まで電車に揺られた











どうっすか?


後輩の梶くんと先輩の森久保さん編!




思っていた以上に長くなったのでいったん区切ります


今夜は、従兄弟の寺島くん編もUPるのでしばしお待ちを☆




待っていてくれる人がいるのか?(;^_^A




従兄弟編に続くぅ!