祖父に抱きしめられた感触を忘れないように
座席の端でじっと身を丸め
祖父の家へと向かった。
長かったような、短かったような移動時間。
やっと着いた。
見慣れた道路
見慣れた車
見慣れた祖父の家
すべて変わっていないはずなのに
すべてが変わってしまったような気がした。
今まで信じ続けていた人に裏切られてしまったような
今までおいしいと思っていたものが突然まずくなったような
そんな感じ。
そうして祖父と2ヶ月弱ぶりの再会を果たした。
祖父は居間で眠っていた。
そう、どうしても眠っているようにしか見えない。
いつもと変わらない穏やかな顔。
いつもと変わらないがっしりした手。
ただ1つ違うことは
「いらっしゃーい。よく来たね~。」
といつもと変わらない笑顔で出迎えてくれなかったこと。
たったそれだけ。
たったそれだけなのに、淋しすぎる。
祖母は必死で
「お父さん、起きてよ。みんなが来てくれたんだよ。」
そう話しかけていた。
そして私が祖父宛に書いてきた手紙を祖父の枕元に置いた。
その後はひたすら泣き続けた。
体中の水分を搾り出すほどに。
そして私は思った。
癌に蝕まれ、ずっと痛がっていた腰。
湿布を貼ったり
誰かにさすってもらったり
本当に本当に痛そうだった。
なのに、誰かと喋ったり接する時は
全然痛さを見せなかった。
2ヶ月前、友達と遊びに行った時も
笑顔で出迎え、笑顔で見送ってくれた。
なんて強い人なんだろう・・・・・
その時は何も感じなかったけど
祖父が眠った今になって、祖父のすごさを知った。
ー続くー
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お父さん。
私の尊敬する人は、お父さんとお母さんだよ。
胸を張ってそう言える。
お父さんがいなくなってから、それは確信に変わったの。
ダンボールのテーブルと茶碗2つから始めて
2人で財産を貯めてきて。
本当に強い。
しかも強さだけじゃなくて優しさももってる。
自分の祖父はこんな人ですって
みんなに自慢したいよ。
そして私もお父さんみたいになりたいです。
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言葉にできない想いを胸に、父の運転する車で祖父のもとへ向かった。
車中の記憶はほとんどない。
どうやって車に乗ったのか。
途中でラーメンを食べたことは覚えているが、
何ラーメンを頼んだのか、どんな味がしたのか、全く覚えていない。
ただ1つ覚えているのは、ある不思議な現象である。
私は後部座席の左隅にもたれかかり、眠っていた。
いや、泣き崩れていた。
どんどん溢れる涙。
何を想って泣いていたのか。
わからない。
そんな時、ふと気がつくと、動きたくても動けなくなっていた。
泣き疲れてるから・・・?それとも金縛り・・・?
いや、なにか大きなクッションに包まれている・・・?
やわらかい。あたたかい。
しばらくすると、すっと動けるようになった。
今のはなんだったんだろう・・・
誰かにそっと抱きしめられてる感じがした・・・
そう、それはきっと・・・お父さんだったんだ。
今まで経験したことのない経験。
初めての感覚。
私のところへやってきた祖父が抱きしめてくれたとしか思えなかった。
祖父がいなくなってしまった。
つらい。
悲しい。
淋しい。
だけど、少し心が安らいだ。
それはもしかしたら、祖父の最期の抱擁だったのかもしれない。
私のために、わざわざやってきてくれたのかもしれない。
祖父が私を愛してくれたことを伝えるために。
ー続くー
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お父さん。
あの時抱きしめてくれたのは、お父さんだよね?
来てくれてありがとう。悲しかったけど本当にうれしかったよ。
小さい頃、私が名古屋から水戸へ引っ越してしまった時も、
お父さん、淋しくて、すぐに水戸に遊びに来てくれたんだよね。
亡くなる前の夏休みだったかな。
そのときのことを懐かしそうに話してくれたお父さんの笑顔、忘れないよ。
きっと最期に抱きしめに来てくれたときも、
もうしばらく会えないことを思って来てくれたのかな。
本当にとても愛してくれててたこと、今も愛してくれていること。
ちゃんと伝わってるよ。
私はその愛があるから、今ここにいられるんだ。
ありがとう。
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2日前に見た夢。それはとても不吉な予感がする夢だった。
私たちは普通の乗用車(おそらく祖父の車だろう)に乗っていた。
後部座席に乗っている私。
運転席に乗っている母。
助手席に乗っている祖母。
そして、
運転席と助手席の間の席のないところに浮くように薄っすらと存在している祖父。
その車は、葬儀場の前を通過していった・・・・
「お父さんの調子、あんまりよくないよ」
母にそう聞いていた私は、心配がゆえにそんな夢を見てしまったんだと思っていた。
しかし、今となっては・・・
祖父の死を暗示した夢だったのかもしれない。
いや、
私がそんな夢を見てしまったから・・・
だから、
お父さんは亡くなってしまったんだ・・・
どうしても自分の見た夢のせいとしか思えなくなってしまった。
祖父の死を、何かのせいにしたかった。
もっともっと、一緒にいたかったから。
もっともっと、いろんなことをしてあげたかったから。
もっともっと、大好きだよって伝えたかったから。
誰かの死がこんなに苦しいと思ったことは今まで一度もなかった。
溢れる涙。
溢れるほどの思い出。
溢れんばかりのあの人の笑顔。
言葉にできない想いを胸に、父の運転する車で祖父のもとへ向かった。
その車中、今まで経験したことのない、ある不思議な現象が起きた。
ー続くー
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お父さん。
私を愛してくれたこと、誰よりも愛してくれたこと、忘れないよ。
あの日の涙と一緒に
お父さんとの思い出が流れてしまわないように
私はぐっとこらえたんだ。
流れるのは涙だけであるように。
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平成16年10月24日早朝。6時くらいだっただろうか。
家の電話が鳴った。眠い目をこすりながら受話器を取りに行く。
「はい、もしもし・・・?」
「お父さんが亡くなったよ・・・」
癌で入院している祖父のところに行っていた母親からだった。
「なんで?」
癌が再発した祖父の体調は、ここ1週間、ことさら良くなかった。
医師からは、年単位ではもたないでしょう、と言われてた。
もう治らないことはわかってた。
祖父の痛みに耐える姿を見るのは心苦しかった。
だけど・・・・・・
「なんで?」
私の口からは、その言葉しか出てこなかった。
そして、とにかく、悲しみの渦の中に巻き込まれていった。
そういえば前日、祖父の病室から母親が電話をかけてきた。
「昨日電話したとき、お父さんと話せばよかった・・・。話せたのに。
ほんとに話せばよかった・・・話せばよかったよ・・・。」
「うん、そうだね。でもね、お父さんずっとあなたのこと聞いてたよ。
いつから一人暮らしするのかって聞いてたよ。」
涙しか出てこない。
溢れる涙を抑えられない。
きっと抑える必要はないんだと思った。
そして、2日前に見た『ある夢』を思い出した。
(私があんな夢を見たから、お父さんはいなくなってしまったんだ・・・)
ー続くー
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お父さん。
魂が体を離れた瞬間。それはどうだった?
きっと、ずっとずっと苦しんでいた腰の痛みから解放されたよね。
痛みをとってあげられなくてごめんね。
でも、薬にも誰にもできないのに、
『死』だけがその痛みをとってあげられるなんて、皮肉だよ・・・
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ねぇ、キミは幸せだった?
僕と一緒にいて 幸せだった?
どこへ行っても キミといたことを思い出す
ここよく歩いたなとか
これすごく好きだったなとか
かじりかけのリンゴをポケットに入れたまま
長い長いこれからを1人で歩いていくんだ 僕は
決して腐らないこのリンゴを
時々手で触れながら
ねぇ、キミは幸せだった?
僕と一緒にいて 幸せだった?
どんなことをしてもキミの笑う顔を思い出す
くだらないことで笑ったなとか
僕にいつもほほえんでくれたなとか
かじりかけのリンゴをポケットから取り出せば
いつかまたどこかでキミに出会える気がするよ
僕はキミに
キミと一緒にいて幸せだったと
一言伝えられるだろうか
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今はいないあの人へ。
大好きだったあの人へ。
そして、今も大好きだよと伝えたい。
