その日を境に俺の店には新しい常連が増えることになった。
宣言通りヒナタは毎日数回真っ青な顔で俺の店に訪れては細い体に想像できないほどの量を収めて幸せそうな顔でまた牧場仕事へ戻っていく。
宣言通りヒナタは毎日数回真っ青な顔で俺の店に訪れては細い体に想像できないほどの量を収めて幸せそうな顔でまた牧場仕事へ戻っていく。
どうやら今は荒れ地を整えている様で体力が酷く削られるらしい。
「やっと3分の1がきれいにできたからこれから耕して種を植えるけど、レーガに選ばせてあげるよ。何がいい?」
オムライスを頬張りながら思い出したといった調子で俺に尋ねたヒナタは答えを求めるマイクの様にスプーンを俺に向ける。
少し悩んでから俺が出した答えは
「そうだな……。じゃがいもとかはどうだ?」
牧場生活初心者にも育てやすい物。
欲を言うならもっと他の物もあったけれど今は手に入らないものだから贅沢は言わない。
「おっけー!めっちゃ美味しいじゃがいも育てるから楽しみにしてて!」
自分の胸元に拳をドンと当ててえくぼを見せる。
「そうと決まれば早く食べないと!」
食べていたオムライスをあっという間に器を空にした。
なんかどこかで見たことある光景……こういうをなんだっけ、デジャヴとかいうんだっけ。
荒っぽい仕草でケチャップを拭うとごちそうさまでした、と手を合わせてあっという間に店から出て行った。
「相変わらず男前だな……。」
ヒナタが店から出て暫く経った後、クラウスがいつもの様に食べに来た。
「いらっしゃい。今日はなににするんだ?」
「そうだな……。たまにはレーガのオススメにしてみようかと思うんだがどうだ?」
「俺の?」
「ああ。今日はそんな気分なんだがダメだろうか?」
少し楽しそうに目元を細めたクラウスはなんだか機嫌が良い。
「それは構わないけど、どうしたんだ?何か良いことでもあったのか。」
「まあ、そんなところだ。」
グラスに入った氷を転がしながら何かを思い出す様に目を閉じたクラウスはやはり楽しそうだ。
静かに店内を流れる軽快な音楽にバターの溶ける音が重なりバター特有の少し甘い香りが鼻腔を刺激する。この瞬間が好きだ。
何百回と繰り返した手順から作り出したのは昼間にもヒナタに出したオムライス。
「おまたせ。オムライスを作らせてもらったぜ」
「オムライスか……」
何かに続く言葉を飲み込むような囁きの後にクラウスはいつもの様に食事を始めた。
「オムライスの気分じゃなかったか?」
「いや、ヒナタから今日オムライスを食べたって聞いたからそれを思い出しただけだ。気にするな」
また思い出したのか、クラウスは口元を押さえ穏やかに笑う。
もしかして……。
「今日あった良いことってヒナタ絡みだったりするのか?」
「よく分かったな、その通りだ」
笑いが収まったのか、オムライスを腹の中に納めたクラウスは水を飲み干した。
よくよく考えれば俺はヒナタとはこの店の中でしか話したことがない。
ということはあいつの普段や街の住人からの評価等はあまり知らない。悪い噂は聞かないから相応の人間ではあるんだとは思うけれど。
「そうだな……。今日の夕方くらいにヒナタがカバンに収まらないくらいに何かを持っていたから手伝ってやろうと声を掛けたんだが、あいつびっくりしたのか何かを落としたと思えば、全部じゃがいもだったんだ。階段や広場まで散らばってしまってな。
あの時のヒナタの顔があまりにもおかしくて」
「それは俺も見たかったな。」
話に聞くだけでもその様子が頭に浮かぶ。
本当に面白い奴だ。
「そのまま拾ったついでにあいつの家まで手伝ってやったんだが、荒れ地だったはずの土地が綺麗に整備されていて驚いたよ。」
「へぇ……。そんなに綺麗になっていたんだな」
「一度行ってみるといい。」
クラウスにしては珍しく推してくる様子からしてよっぽど驚いたらしい。
「また休みの時にでも行くことにするよ」
「そうか。ご馳走様今日も美味しかった」
「ありがとうございました。また来てくれよな」
そして、また店内に静けさが訪れた。