覚えてること。
背が高いから、猫背で窮屈そうに机に向かってた。
入口の扉すれすれに頭があって、
ぶつけるんじゃないかと見てるこっちがハラハラした。
痩せてるからか、すぐにシャツの裾が出ちゃってた。
頬杖ついて居眠りして、ほっぺたに赤い跡が残ってた。
初めて向かい合わせで座った時、眼鏡をはずして私に笑いかけた。
その時の目がすごくやさしくて、ふんわり笑ったから、
なぜかドキドキしてしまった。
でも、どんな顔してたっけ?
クセ毛なのか寝癖なのか、よく分からない髪してたような。
声はなんとなく覚えてるんだけどな。
電話してるのを聞いた限りでは、とても丁寧でいい人そうだった。
どんな手してたかも覚えてない。
わりとキレイな手だったような気もするけれど。
最初の頃の会話とか何も覚えてない。
どんな目してたっけ?
あの瞬間の笑顔はしっかりと覚えてるんだけど、
それ以外はあんまり思い出せない。
でも、何も覚えてなくて当然。
だってそんなつもり全くなかったんだから。
すべて終わってから、
終わった頃になぜだか急に気になりだした。
今その人と何かあったか必死に思い出してる。
思い出してもなんにもならないのに。
その人もいい迷惑だよね。
今頃こんな遠いところで勝手にあれこれ思われて。
大丈夫。
迷惑かけるつもりはこれっぽっちもないから。
いろんな事があまりにも遠すぎて、お話にすらならないから。
だから、その人に気づかれないように、
こっそりと。ひっそりと。
ただ、もう二度と味わうことないと思ってたこの感情を
思い出させてくれた事に感謝してる。すごく。
ホントにありがと。
キミはキミの人生を。
そして 私は私の人生を。