コンピュータ書の版元エクスメディアが倒産したときには、特に驚きはなかった。むしろ、危ないという噂が何年も続いていたから、油断していたタイミングで、しまった!という感じだった(もっと返品しとけばよかった)。
コンピュータ書はずっと低迷していて、出版社はどこも、実用書やビジネス書、新書へと新規開拓を続けていて、もはやコンピュータ書だけではやっていけない状況になっている。とくにアプリケーション(word,excel)の本は、最盛期から考えると驚くほど売れていない。そこを主軸としていたエクスメディアが倒れるのは、そんなに不思議なことではない。
が、「超図解」というブランドが売れなかったのは、驚きだった。売れないジャンルになったとはいえ、誰もが知っている名前だし、本作りのノウハウだってあるものだ。他の出版社が買ってもいいのではないか、そう思うし、噂によれば、実際に買い取ってもらうように画策していたようだ。しかしながら、結果は完全に廃業だった。知名度があってもダメ。ほんとに売れなくなった。ということなのだろう。
しかし、驚きはむしろ、山海堂の倒産だった。ブログなどを覗くと、F1やラリーといった車関係で惜しむ声が大きい。実用書と、土木の専門書の版元として、いわゆる新興の出版社というイメージのエクスメディアよりも、しっかりした版元だというイメージを持っていた(あくまで私個人のイメージですが)。
コンピュータ書が不振な理由はわかる。WindowsVistaだ。パソコンも新OSも売れていない。今年のはじめに、鳴り物入りで出たものの売れなくて「いやあ、夏のボーナスでしょう」といって、夏をすぎても売れず、年末になった今でも動きは鈍い。WordやExcelは学校で習うために入門書を必要とする若者はほとんどいなくなったし、学校や職場で古いバージョンのままなのに、わざわざ新しいバージョンを使いたいという人もいない。Webで検索なんて、いまやおばさん、おじさん、でもできる。いま、できない人というのは、そもそもパソコンなんて必要のない生活をしている優雅な人だけだ。
けれども、出版社としてはVista&Office 2007用の新刊を出さないわけにはいかない。そして、どれもが不発に終わり、耐えきれないところがでてきた。これはわかる。
けれども、山海堂はわからない。
というか、山海堂がダメとなれば、他もダメなんじゃないか。
出版社は新刊を出すと取次から金をもらう。もらった金で新しい本を作り出すとまた金をもらう。しかし、売れなくて返品されると、取次にお金を払う。理屈の上では、新刊を出し続けている限りは、本が多少売れなくてもなんとか、食いつないでいける。
ところが、おそらく、取次が新刊を受け取らなくなった。これ以上、売れない本を出版し、返品を許すことができなくなってきた。山海堂は、その端緒だという気がする。もし、そうだとするなら、来年は、大手はともかく、準大手的な出版社の倒産が相次ぐだろう。(ちなみに零細な出版社は、ニュースにならないぐらいどんどん潰れている)
エクスメディアも山海堂も、取次は書店からの返品をほとんど受け付けていない(一部、委託期間のみ受けている)。不良在庫を抱え、一部書店では割引販売も行われているという。何年か前に騒がれて消えていった、再販制度見直しが、ここにきて無理矢理始まりそうな気配だ。
そして、それと呼応するように、おそらく日本一の書店である、Amazonの新刊の発売日が、リアルな書店よりも一日二日早くなった。アマゾンでは、既に発売されているのに、書店にはまだ商品が来ていないという事態が発生しているのだ。これも推測だが、取次を通さずに、直接、仕入れていると考えられる。まさかアマゾンが各出版社を回っているとは思えない。とすれば、出版社がAmazonに直接納入しているのだろう。そうなると、Amazonというのは取次+小売となるわけで、これが日本一の取次となることも、不可能ではない(噂では今でも書店がAmazonから仕入れるということも、洋書などの場合あるようだ)
Amazonの商品管理&物流は、もはや日本の取次を超えつつある。私は日本の取次はかなり優秀だと思うが、即日、各家庭へ届けるAmazonに対しては、勝っているとはいえないだろう。大手の取次は、大手の出版社が株主となり、非常に有利な形で、半独占的な商売をしてきた。けれども大手出版社のドル箱だったコミックが低迷し、「カンフル剤」だったアニメも視聴率がとれなくなってきている。
そこにきて、Amazonが日本の出版で一番になってしまったら……、さて、一ツ橋グループや音羽グループはどうしますかね。
イミダス、知恵蔵が今年は発刊されず、Wikipediaや電子辞書がそれにとって変わった。何度も普及に失敗している電子ブックも、すでに若者だけでなく中高年にも普及しているNintendo DSが進出し、ケイタイ小説がベストセラーを独占している。
この20年ほど、新刊が山のように書店に配本され、大量に返品されるという状況が続いてきた。出版点数をどんどん増やすことで、なんとか売上を維持してきた出版界が、ここにきて、バブルとも言える状況を維持できなくなってきた。
いつかくると思ってきたが、とうとうきたな。というのが私の感想だ。
マスコミといって、就職では華のようなイメージがあるかもしれないが、出版社も書店もほとんどが零細。大手といっても世間では中小企業の規模でしかない。
さて、これからどうなっていくのか、どうすべきなのか。次回はそれを考えてみよう(いつになるのかわからないけどね)