先日、本好きのパートさんから「所長は今年の本屋大賞はもう読みましたか?なかなか面白かったですよ?」と声をかけられました。


自分は毎年本屋大賞受賞作を読んでいるわけではないのですが、今年の受賞作の、成瀬は天下を取りにいく、という題名がかなり気になっていたのでパートさんの後押しもあり、早速本屋で「成瀬は天下を取りにいく」と続編「成瀬は信じた道をいく」の二冊を買いました。



非常に読みやすい内容で1週間で二冊読み終えたのですが、さらに続編が読みたいと思ったのは久しぶりでした。


それほどまでに主人公成瀬が魅力的だったのですが、一体なぜ成瀬が多くの読者に支持されたのか?その理由を自分なりに考えてみました。


魅力的といっても世間一般的には、変わり者、変人、に分類される主人公成瀬。


友人知人の意見には耳を傾けつつも、納得のいくまで追求し自分で考える。

そして確信を得たならば、たとえ周囲から奇異に思われようと信じた道を突き進む。


成瀬の周りにいる人たちの、自分の価値を定義する基準が外にある人たちから見たならば、内なる価値基準で生きる成瀬は近づいてはならない得体のしれない人物であり、また脅威ととも捉えられる。


しかし、次第にみなその彼女の揺るぎない自信と信念、安定感に否定しがたい魅力を感じ、また信頼を寄せるようになります。


また行動原理が常に合理的であり、目標を達成するのに何が必要なことなのか?を常に自問自答する姿はある意味求道僧を連想させます。

そして必要とあらば人にどう思われようと積極的に人に声をかける。


成瀬のそのような人柄は、今の日本社会を支配しているところの、周囲の空気を常に読み、空気を合わせ空気に左右されやすい国民感情とは全く真逆であり、それゆえ成瀬と関わった人物たちは、時に戸惑い、最初は距離を取ろうとします。


しかし、その真実を常に追求する姿、真の通った姿に次第に登場人物たちは感化されていく。


物語としては中学、高校、大学、と進んでいくのですが、物語はここまでであり、続きを書こうとすれば社会人、壮年期、老後と永遠に書けるような気がします。


書店員が選ぶ本屋大賞はある意味、今読者の求めているものは何であるか?を一番正確に現している賞だと自分は思っています。


成瀬の姿は今日本人が望んではいても、孤立することが怖くて手を伸ばせない理想像を表現している自分にはそう感じました。


出る杭は打たれる日本においては、変わり者、変人は生きにくい。

しかし信念を持って貫き目に見える成果をだせば、誰も否定することのできない境地に辿り着くことができる。


結果として賞賛もある程度得られるかもしれませんが、成瀬のように世間の評価を気にしなければ幸福に生きられる。


そんなことをこの小説は教えてくれます。


今回描いたイラストは海の見える坂道です。

将来的にはこんな場所に住んでみたいですが、坂道の上がり下がりは大変そうです…。