West Side Lovers

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あやねのブログ

気兼ねなく、想う存分に奈義翔。慎凪。
時々、another side story。
one shot love
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町家の糸屋格子のそれのように、間隔さえも等に美しくまっすぐに伸びた黒い睫毛が、傍でゆっくりと瞬くのを見ていた。
襟足の髪を細い束にして汗が一筋、その首筋を滴り落ちる。衣紋を抜かず少し窮屈なくらいしっかりと合わされた襟に消える汗が、清楚さと裏腹に、まだ見ぬ姿を想像させた。

ーーー美しい人。
それが二度目に彼に会った印象だった。


風ひとつないうだるような暑さから逃れた屋内は、庭に続く戸を開け放ったままだったせいか、冷房は期待したほど効いてはいなかった。
それでも、立っているだけで汗が背を流れる外の暑さと比べれば、ここは格段に天国と呼ぶに近かった。
「中でも撮影するん?」
写真撮影用にとスタッフが用意した団扇を、凪沙はパタパタと鳴らして仰いだ。
張り付いたいくつかの毛束を残して、髪が揺れる。
「何言うてんの。中がメインやん」
「俺、氷食いたいわ。かき氷。ブルーハワイがええな」
「もうサボることばっかりやな」
「ええやん。写真も撮れるやん。浴衣言うたらかき氷やろ。なー、自分も食べたいやろ?」
「ーーーっッあ、はいっ!…ッ!」
急に自分にふられて、声が掠れた。喉をつめて咳も出た。
「どないしてん?大丈夫か?」
質問は真剣な意味合いを持たず屈託なく笑って、意図してかしないでか僕の緊張を和らげてくれた。
「何味にする?」
「あー・・・えっと、宇治金時とかありますかね?」
「あるやろ。っていうか渋いなぁ!」
「そう、ですかね?凪沙くんはあんまり好きちゃいますか?」
「そんなことないで。俺にもちょっとちょうだい」
目尻のしわとくっついてしまいそうな大きなエクボを作って、彼が言う。
体格も声も話し方も所作も、どこを切り取ってもユニセックスさのかけらも感じなかった。ほかの誰よりも。
それが初めて彼に会った印象だった。
それは今も変わらないのに。
どこまでも男らしい彼の、同時に存在する可愛らしさに面食らう。
こういう人を魅力的と言うのだろうか。
「あ、はい!食べてください!」
勢いよくした返事に、僕はまた喉をつめた。


薄い衣が二枚、重なる。
あっという間に体温は、伝わった。
「そのまま。動かんといて」
シャッターを切るその音が遠くに感じるほど、きっと、腕の中で発熱する人に神経が注がれている。気づかれまいと作り笑いを振りまく。鼻下をくすぐる髪がふわふわと動く。
女の子なら、ここでちょっと甘い香りなんかが漂うのだけれど。今は少し煙草の匂いがする。
「あっつー。体温高いなぁ?」
少し視線を上げてこっちに顔を傾けられて、動くだけで自然と唇が重なるくらいの距離まで近くなる。変に意識して硬直した躰に抱きつかれた。心臓が一度はねた。
視線を落としていた顔がまた近づいて、僕にでも誰にでもなく彼が言った。
「なんか、懐かしいな」
「ほら!なっちゃんも新人くんもこっちちゃんと向いて!」
「まだー?あとどれくらい撮るん?」
一瞬だけ別人のような素振りを見せてすぐにいつもの彼が、もたれるようにこちらに体重をかけてうなだれる。支えるのに、腕に力を入れる。
女の子なら、もっと軽くて遠慮がちでやわらかくて―――。そのどれにも該当しない腕の中の人にまるで心臓で触れているように、その存在を意識させられる。
甘えるように遊んでいるように抱きつかれて、その躰に腕を回して抱き返すのに、なのにちっとも抱き返せない。捕まえられない。
男だから、なのか。
彼だから、なのか。
まだ僕には何も分からない。
ただ、心臓がずっとはねていた。


「自分、名前なにになったんやっけ?」
躰を剥がして、凪沙が聞く。
「まだ決まってないんです」
「マジで?これから撮影やのに、名前呼べんやん」
見開いても黒目がちの目をこちらに向けて、まるで子供みたいに驚いてみせる。
三度目、四度目と、これからどんな顔を見せてくれるのだろう。
「あの・・・凪沙くんが決めてくれますか?」
「俺が?」
「はい。僕だけのなんかスペシャルなやつお願いします」
「ええよ」
「ほんまですか」
「おう。スペシャルなやつな」
「はい!スペシャルなやつで」
背中に回していた手を互いの胸の前に持ってきて拳を作ると、僕の方へ拳を突き付けてきた。その意味がすぐに分かって、僕も拳を作って合わせた。
凪沙がそれは楽しそうに笑って、それから言った。

「"SPECIAL"のSから始まるやつにしたるわ」




なぜだか、それはとても特別な気がした。