こんにちは。
体感で読む源氏物語。
今日は言葉編「心置き(こころおき)」を扱っていきたいと思います。
「蛍」の巻の中に、光源氏が物語論についてお話をする場面があります。
その中で、自分の娘に対しては男女の仲について書いてある本を読ませないように指示を出しているのに対し、玉鬘に対しては特にそういった制限を設けていない。
そのことから、自分の娘と玉鬘との間に、
何か微妙な距離感を抱いているのではないかという感じがします。
それを感じさせるせる一文があります。
「こよなしと、対の御方聞きたまはば、心置きたまひつべくなむ。」
(出典:『源氏物語』第25帖「蛍」)
この地の文の中で「心置き」という言葉が出てきます。
紫式部はこの地の文で何を伝えたかったのか。
音を一音ずつ、体感として解釈していきたいと思います。
「こ」:感情をパッケージする丸い器
源氏物語では「心」に関する言葉が非常にたくさん出てきます。
源氏物語の鑑賞と基礎知識「総角」のなかで、
「心」「御心」だけで5122回も出てくると解説されていますが、
源氏物語は「心のアーカイブ」「人の情緒のアーカイブ」ではないかと感じています。
最初の「こ」は、唇を丸くして口の中に丸い空間を作ります。
呼気が内側から破裂する勢いのある音ですが、外に大量に出ない音です。
「お」という母音との組み合わせによって、口内に呼気が留まるような体感が得られます。
「こ」が2回続くので、さらに強調されます。
自分の内側に生まれる感情の波を、丸い空間に留めておく。
器の中に感情をパッケージするような体感が「ここ」で起きます。
「ろ」:思考と論理による「ひるがえり」
「ろ」はラ行音です。
舌先を上顎の前歯の後ろにちょんとつけ、それを引き剥がしながら出す音です。
引き剥がしながら、ひるがえりながら、舌の裏側はドライに乾く。
このプロセスはとても複雑な動きをするので、技巧的、左脳的、論理的。
頭で考えたルール、論理的思考に落とし込まれるような体感です。
「ここ」という得体の知れない波の状態の感情を、器の中に入れ込み、その感情の形を認識する。
入れ物的な装置のような意味合いを感じさせる並びです。
「お」:腹の底へどっしりと落ち着く
4番目の音「お」は、響きが他の母音よりも低い位置にあります。
呼気を外に出さず、腹の底に重心が来るような、どっしりとした落ち着き。
気持ちが落ち着く感じや、地にあしがつく、着地させるような体感が得られる音です。
「き」:研ぎ澄まされた棘の認識
最後は「き」。強い破裂音です。
カ行は喉の奥をギュッと締めて、空気の圧が高まったところで一気に外に出るスピーディーな音。
ドライで硬さがあり、緊張感も現れています。
特に「き」は母音「い」との組み合わせ。
一点に集中した強い音が外に出ていくような、トゲトゲした感じや、突出した感じがあります。
結び
「心」という器に入った感情が、自分の低い重心のところに腹落ちしていく。
そして、その突出したトゲトゲとした感情を、体感として認識して着地する。
そんな音の並びが「心置き」には現れている感じがします。
実の娘には恋愛の本を制限しているのに、玉鬘には制限を設けていない。
玉鬘に対しては養父という立場でありながら、
男女の関係になりうる絶妙な距離感を保っている。
そんな源氏の内情を、紫式部はこの地の文から浮き立たせようとしたのかもしれません。
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「心置き」
皆さんはご自身で発音した時に、どのように感じられたでしょうか。
ぜひ、その自由な発想を味わいつつ、源氏物語を楽しんでみてください。
「体感で読む源氏物語」。
今日は「心置き」についてお伝えさせていただきました。
それでは、またお会いしましょう。
さようなら。
