海の底に居るんだと思っていたのに

足元の水面が私を呼んでて

呼ばれる声に引かれて

寄りそうように指先を伸ばしてみた

すると海の底の奇妙な水面から

意識を洗い流すような

「涙」のような感覚が流れ込んできて

ぽたぽたと濡れたまま

わたしはなぜか森の中に立っていた

遠くを見てた 丘の方を

その更に向こうの景色に

胸が詰まるような感情を覚えながら

ただ遠くを見てた 好奇心とおびえで...

先程まで海底にいた躰(からだ)は

水の雫をまとっていて

それは規則正しい音を立てながら

ぽたぽたと髪や鼻、顎、指先から、垂れている


森の風の冷たさと

湿った緑の温かさに体を包まれて

木の根っこに生えたふかふかの苔(こけ)や

こちらに向かって垂れている大きな葉っぱに

寄り添ってしがみつくように丸くなってみたけれど

突然 誘われる眠気に引き寄せられて眠ってしまった

横たわった根っこのふかふかな森の絨毯(じゅうたん)は

生命を温かく支えている母なる樹のふもとにあった


その日は、海の底に居た頃の孤独と、森に出された事での生きることの痛みを、胸に感じて切なくなりながら

肩を抱いて眠ったのだ