はじめに
日本を代表するホテルグループ、アパホテル。その創業者である故元谷外志雄会長の歩みを辿る中で、私がどうしても知りたかった問いがひとつありました。
「なぜ、海外戦略に出たのか?」
その答えを求めて本を読み進めた結果、得られた結論は意外なほどシンプルでありながら、深く納得のいくものでした。
海外進出の動機 — シンプルな真実
会長が海外戦略に踏み出した理由は、突き詰めれば二点に集約されます。
① 日本のトップホテルグループになったこと ② 自分自身が、海外で楽しみたいという想い
この二点を知ったとき、私は思わず膝を打ちました。壮大な経営戦略の裏に、これほど人間らしい動機が宿っていたことに、むしろ清々しさを感じました。偉大な経営者もまた、一人の人間であるということを、改めて教えられた気がします。
信念と反対勢力 — 会長の役目
創業者が強い信念を持てば持つほど、それを支持する賛成勢力も大きくなる。しかし同時に、反対勢力もまた巨大勢力になるという現実があります。
これは組織の宿命とも言えるでしょう。元谷会長はその相克の中で、信念をいかに貫き通すか、それこそが会長としての真の役目であると体現し続けました。
リーダーとは、孤独に信念を守る者ではなく、反対の声をも受け止めながら、それでも前へ進む者なのだと、この一点だけでも深く学ばされました。
変化を受け容れる — 実業家としての責務
開業当初、海外進出はまったく想定されていなかったといいます。しかし、自社の立ち位置が変わり、国内における存在意義が変化していく中で、会社の方向性もまた変化していくのは当然のことだと会長は語ります。
ここに、実業家としての本質的な姿勢があります。
常に変化を受け容れること。それが実業家としての責務である。
計画は変わる。市場は変わる。自社の立場も変わる。それを恐れず、むしろ変化の中に次の一手を見出していく姿勢こそ、元谷会長が生涯をかけて示し続けたものではないでしょうか。
相反するものの中で生きる
ここで、私が最も心を動かされた点に触れたいと思います。
実業家には、二つの相反する責務があります。
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一方 |
他方 |
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※変化を受け容れる柔軟性 |
※創業者としての信念の一貫性 |
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※時代に合わせて変わること |
※ブレずに守り続けること
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この矛盾を抱えながら、それでも前進し続けること。これこそが、創業者経営者の宿命であり、醍醐味でもあるのだと思います。
元谷会長は、この相反する二つをどちらも手放さずに生き抜いた方でした。変化を恐れず、しかし信念を曲げない。その生き様そのものが、アパホテルという巨大グループを作り上げた原動力だったのでしょう。
おわりに
「なぜ海外に出たのか」という問いへの答えは、経営論でも市場分析でもなく、一人の人間としての欲求と誇りでした。
日本のトップに立ったからこそ、次の世界へ。そして、自分自身がその世界を楽しみたいという純粋な想い。
その人間らしさの中に、偉大な経営者の本質を見た気がします。
故元谷外志雄会長のご冥福を、心よりお祈り申し上げます。
2026年5月