『 桜のポートレート 』#9 | 『あらしのおはなし』* 嵐妄想小説 ~

『あらしのおはなし』* 嵐妄想小説 ~

日々妄想。
時々執筆。

愛情込めて、紡ぎます。



小さな子供と風呂に入るって、

俺は今までほとんど経験したことがない。

温泉みたいな大型入浴施設で、ツレの子や親戚の子となら、大勢で一緒に入ったことは何度かあるが、

ふたりきり…ってなると、初めてだ。


あたまを洗うのも、もちろん、初めて。



「お湯、熱くねぇか?」

ふたりで洗い場にすわり、さくらのあたまに、そっとシャワーの湯をかける。

何度も自分のはだで温度を確かめ、ややぬる目にしたつもりだ。

あちぃ、なんて泣かれたら…

たぶん凹んじまう。


「うん、へーき」

そう言われて、ホッとする。

髪の毛ひとつ洗ってやるのも、おっかなびっくりだ。


次にシャンプーをつけて泡立てた。

やさしく、やさしく、と心の中で念じながら。

すぐに白い泡がモコモコ泡立って、さくらのあたまを覆いかくす。


ちっせえ、あたま。

髪の毛なんて、絹糸みてぇにほっそくて…。

力を入れたら、こわれちまいそう。


なんだか、とても神秘的だ…と思う。

ちっちゃくて、弱くて、ふにふにしてて、

子供って、なんだか、とっても……



「さとし」

さくらがくるりと振り向いた。

まんまるの目で、俺を見上げる。


あたまに泡いっぱいくっつけて、

なんかそれが、まるでわたぼうしでもかぶってるみたいに見えて、


なんだか、とっても……

か、カワイイ……!!

…天使みてぇ。


ほわん、と表情筋がゆるんだ。

俺は今、とんでもなく、

気の抜けた、みっともない顔してるに違いない。


「もういい」

そう言って、小さな口を尖らせた。

どうやら天使は、長い間 あたまを洗われるのはキライみたいだ。


「お、おう、そっか。じゃあ、流すぞ。目ぇつぶってろ」

そう言うと、さくらはキュッと目を閉じた。

お湯をあたまからかけられるのもニガテなようで、

顔をくしゃくしゃにして、力いっぱい目を閉じてる。


カワイイ。

可愛すぎんだろ。


俺はそっと、シャワーで泡を洗い流してやった。

そりゃあ、もう、最大限にやさしく。



身体も洗い終わると、ふたりで湯船に入った。

熱くない、ぬる目の湯。


さくらはごく自然に、伸ばした俺の左ひざの上にちょこんと尻を乗せた。

湯の深さは、いつも通り大人に合わせたもので、さくらには少し深い。

俺のひざは、イス代わりにちょうどいい高さなんだろう。


ひざにかかる僅かな重さが、なんとも、

…愛おしい。



「保育園、楽しいか?」

いつもよりピンク色の頬をしたさくらに話しかけると、

「うん」

と 笑顔を見せた。


「そっか。……好きなコとか、いんのか?」

って、こんなこと聞いたりして、

「うん、ナオくん!かけっこ早いの!」

「そ、そっか…」

地味にショックをうける。

ちくしょう。

なんだか、フラれてしまった気分だ…。


「今度紹介しろよ、その、ナオくんっての。お前にふさわしいオトコかどうか、俺が見てやる」

大マジメにそう言うと、さくらは不思議そうに首をかしげた。

「なんでー?」

「いいから!…じゃないと、こうだぞ〜!」

俺は手を伸ばして、さくらの脇腹をくすぐった。

さくらはケタケタと笑い、身体をよじらせる。

「ヤダー!」

お返しとばかりに、俺に向かってお湯をかけてきた。

「やったなー!」

「あはは!」

そっから、互いにお湯かけ合戦。

バシャバシャと派手に湯船の湯が飛びはねた。


「ああ、もう、ギブギブ!許して!」

大げさ気味に謝ると、

さくらは満足そうに笑った。



笑顔のさくらを見て、

この目が好きだな、と思う。


俺を見上げる、くっきりした二重まぶたの、大きな目。

どんぐりみたいな目。


さなえさんの目も、好きだ。

切れ長の、涼し気な、アーモンドみたいな目が。


そういえば、

さなえさんとさくらははあまり似ていない。

もしかしたら、さくらは父親似なのかもしれない。


…さくらの父親。

つまり、さなえさんのダンナさん。

元、ダンナ…か?


密かに、ずっと気になっていた。


リコン…したのか…?

それとも………


「さくら…」


聞いてもいいだろうか。

父親のこと。


「…お前の、父ちゃん……」


言いかけて、淀んだ。

俺はすごく、デリカシーのないことをしているのかもしれない。

さくらが今もなお、父親を恋しがっていたとしたら…。


「いないよ。死んじゃった」

俺の心配とは裏腹に、さくらはあっさりと答えた。


「そっか…。ごめんな、変なこと聞いちまって…」

「ううん。いい。さくら、おぼえてないの。まだ赤ちゃんだったから。でも、さみしくないよ。さくらにはママがいるから。ぜんぜんさみしくない」


「お前、強えな…」

そう言って、さくらの濡れた髪をくしゃりとなでた。


さくらは曖昧にうなずくと、

目線をはずして、ふいっと、横を向いた。


「さみしがり屋は、ママだよ…」


小さくつぶやいたその言葉は、

湯の中に溶け込むように、

俺の胸の奥の方に染み込んでいった。





風呂から出ると、奥の和室にふとんをふたつ並べてさくらと寝た。

慣れない環境に興奮して寝つけないんじゃないかと心配したが、

意外にもさくらはすんなりと眠りに落ちた。


ふとんに寝そべりながら、となりで安らかな寝息をたてるさくらを眺める。


…守りたい。


俺がずっと、ふたりのそばにいられたら……


そう強く願い、

さくらの小さな手のひらを、そっと握りしめた。






続く