まだ暑い夏の時期に秋物を超えて厚手の上着を着て撮影なんて、気が狂ってるとしか思えない。
用意されたテントで日陰に入っているものの時折吹く風さえ暖かく感じる。
セットの組み直しで、その場を離れると、普段から汗かきのシヌは革ジャンを即脱いで、繰り返しメイクの上からそっと汗を押さえては、メイクを直されている。
「…なんで屋内の撮影じゃだめだったんだ?」
「ん?ん?」
誰に問いかけるともなく口をついて出てしまった言葉に、背後でアイスキャンディを加えながらゲームに興じているジェルミがくぐもった声をあげる。どうも何か言おうとして、両手がふさがった上で、アイスの持ちようがなく右往左往してるうちに、クラッシュした画面がアップになっていて、なんとも言えない悲鳴を上げていた。
「うっわ、鈍臭っ。次貸して」
ゲームオーバーになったらしく、悔しそうに眉尻を下げて肩を落とすジェルミの横に座り込み、画面を覗き込んだミナム。
買ったばかりらしいゲーム機をミナムにとられ、今度はミナムの操作する画面をじっと覗き混んでいる。
こいつらは熱中してると暑さなんて感じないのか?
メイクを直してきたシヌが冷えた水のボトルを持ってきて手渡してくれる。
「水分補給しときなよ」
「俺よりお前こそ、水分足りなくなってないか?」
「それはなんとも言えない、けど、汗も出ない方が体温上昇したりしてないか心配だよ」
無言で俺の衣装の襟足の辺りに指を突っ込んできたかと思えば、空気を入れるように寛げる。ポケットから何か出して、シールをペリペリ剥ぎ取る音をさせると、背後に回り首筋にネットリとした何かが貼り付けられた。
「な、何だ?」
見えていないと何か分からず、慌てて首筋に手をやり振り返った。
「熱冷ましのシート、さっきスタッフにもらってオレも貼ってみたら少しマシだからさ」
「あぁ、でもなんか痒い…」
「うわっ」
ミナムの小さな悲鳴とともに、ゴトンっと近くでコンクリートの地面に重みのある何かが落ちてぶつかる音がした。
「ヒャアァァア!!!」
2人の方を見ると、さっきまで暑いのに熱中していたゲーム機が地面に落ちていた。
「ゴメン、汗で手がすべった」
慌てて拾うジェルミに素直に謝るミナム。
ジェルミはいろんなボタンをあちこち押すものの、画面が黒くなったままで、さらに焦ったように、携帯ゲーム機をぐるぐると回して、いろんな角度から見ている。
「あぁ、うごかなくなっちゃったじゃんか!!!どうしてくれんだよ」
「ごめんって、修理に出そう。その間、俺も買うからそれで遊んでて」
それなりに建設的な妥協案をミナムが提示するも、気が収まらないらしいジェルミが眉根を寄せてじとーっと睨みつけている。
「ネットに張り付いてオーダーしようとしても瞬殺で売り切れるし、10月以降の予約分だってなかなかアクセスできなくてオーダーできないものをどうやって買うんだよ」
「え?ジェルミはどうやって買ったんだよ」
「入荷日未定ってなってるけど、入荷の多い曜日を見計らって、午前中の休みと重なった日に始発前からバイクで量販店乗り付けて並んだんだよ」
…あほか?
そこまでして買うもんか?
「…ネットとかだと定価に上乗せしてあるけど、すぐ買えるんじゃないの?」
一緒に様子を見ていたシヌが横から口を挟むと、眼光のキツくなったジェルミの視線がこっちを向いた。
「そんな転売屋に美味しい思いをさせて助長するようなのがいるから、やつらはこりないんだ!本当に欲しい人の手に正規ルートで渡らなくなるダメな例だよ!仮にもチケットだって転売しちゃだめ!って言ってる側でしょ!」
正論…。
ジェルミが真面目な顔して、まともなことを言っていることについつい年長者として感動してしまった。
「…確かにそうだな。…妹も欲しがってたから並ぶならオレも付き合うよ?」
「え?オレも欲しいって、じゃみんなで次のタイミング狙っていく?で、ジェルミ、いつ頃が…」
気温が無駄に暑い中で、無用に熱く語られてこっちまでその熱気で余計に暑くなってくる。
テントから出て、フローズンフルーツを用意しているテーブルに向かう。凍らせたマンゴーがあるというので貰って、その場で立ったまま食べていると口の中がヒンヤリとして気持ちがよかった。
「シヌさんがオススメしてくれたフルーツのデザート扱ったお店のものなんですよー」
「…へぇ…」
そんな店、いったいどんなタイミングで見つけてくるんだろうか。休みとなると気づいたら俺の隣にいることが多いくせに…。
「できることなら恋人といってみたいなーってネットで調べてただけだよ」
いつの間にか、肩が触れそうな位置に立っていたシヌがテーブルの向こうでサービングするスタッフに声をかけていた。
「気に入った?スイカジュースも美味しいみたいだよ」
見慣れた顔ながら、しみじみと整った顔立ちだな、と見ていると、また額に小さな粒が湧き上がるように汗をかいて、輪郭をなぞるように水滴が伝い流れている。
「…衣装の中もそんな感じなのか?」
「ん?何が?」
「汗だくじゃないか」
「あぁ、汗ね。うん、びちゃびちゃ…背中とかシャツにシミが出来てるんじゃないかな?」
小器用に踵を主軸にして、クルッと4番の1回転して、背中を見せて振り返ってみせる。
確かに背中にべっとりと張り付いたシャツの色が汗でかわっていた。
「…絞って水切りできそうなくらいだな」
「うん、そんな気がする。できることなら下着も変えたいくらい気持ち悪いもん」
「それは…コーディーヌナに言っても持ってなさそうだな」
もう一度クルッと回って、肩に手を置き、暑苦しいのに距離を詰めてきたかと思えば耳元で囁く。
「テギョン用のなら持ってるんだけどさ…この前のモノクロのアニマル柄…」
目を細め、口角を上げて下卑た笑みを浮かべている。
どこで間違えたんだろう。
こんなのがカッコいいとかさっき見惚れたのは、きっと暑さで俺の頭がおかしくなったからだ。
耳元で囁かれたのと、シヌの汗の匂いで俺の体の内側が一気に極限まで熱せられたのは…絶対に悟られるわけにはいかない。
毎度アホなお話でお目汚し失礼しまーす。
宇宙人なヨンファと、パートナーに勝手に選ばれた地球のイケメンジョンシンとかって妄想も生まれてたんですが…
クーラーかけてても暑くてたまらん、ってことで、暑さでボケたちくりんなみにボケたテギョンさんかいちゃいました。
ちなみに現在の我が家のリビング。
エアコンフル稼働の騒音うるさい状態でコレです。
まだ息子は寝てるようなので、この隙に私もマンネたちと同じくスイッチで遊ぼうかな…、と思ったら計ったかのように起きた息子…。
スプラトゥーンさせて…