日焼け止めクリームを塗り終えて大はしゃぎで海に掛けて行く海翔と優菜、焼肉を希薄な表情でも美味しそうに頬張る雄太、青山裕介、藤村浩二を見て微笑ましく見えたのは優依加だけではなかったようだ。

「いいわね、こんな休日も」

 隣に腰を下ろした悟が済ました顔で言った。

「うん……にゅ

 夏の空は眩しいほどに太陽が照り、雲もわりと少なかった。

「今日も暑いわね……汗

 思わず溜息が洩れた。

「なあに、溜息なんかついちゃって?」

「ん……。なんか、こんな熱い日差しだと昔を思い出して……」

 悟は口を開けたまま優依加の横顔を見つめた。

「あいつのこと……?」

 向き直って海翔達の方に向き直った。

「あのバカなら、きっと今も元気にしてるでしょふんっ

 薄く笑った優依加が、何故か寂しげに見えた。

 二人は六年前の夏を思い出していた――。


 朝だというのに暑い真夏の日差し。

 それまで共に過ごした日々。

 明かりを消した部屋に紫色のカーテン越しから差し込む日差し。

 肌のぬくもりや感触。

『悟……。茂人って、真面目な話してる時に……っ、ふざけたりしないよね……っ?』

『それは、お前がよく知ってんじゃねーのか。あいつは、んなことしねーよ』


「あの時まではまだ悟ちゃん、ノンケだったよねにこ

「うふふ。この方が客受けにいいのよ。……海翔は知ってるの?」

 左右に首を振った優依加を見て小さな溜息を洩らした。

「まあ、当時あんたは十七歳、海翔はほんの十歳……。知ってたとしても、覚えているかどうかの年頃よね~」

 波の内際で海の水を掛け合う二人を見て当時のことを思い出す。茂人と離れた後、優依加は学校を中心に生活をし、家では夕飯の時間以外自室に篭った。最初の頃は海翔が部屋まで来て戸を叩くことがあったが、それもいずれはまばらになった。

「多分……、何かあったことには気づいてたと思う。何も聞いてこなかったけれど」

「きっと、あの子なりに聞かなかったんでしょう。あんたが気にする事ないわ」

 話が区切れたところで浩二が悟と優依加に焼きあがったお肉と野菜を入れた髪皿を差し出した。


 気温が上昇するにつれて暑さも増す真夏日。

「海ー!キャー

「海はいいわねー。危険な香りがするわふふん

 浜辺で優菜ははしゃぎ、悟はサングラスを片手にもう片方を腰にあてた。

「危険な香り?カオ+

 優菜は目をまるくして悟を見上げた。

「優菜ちゃんはもう少し大人になってから知ればいいのよウィンク

 屈んで優菜の頬を人差し指でつんと突いた。

「優菜―、日焼け止めクリーム塗っとけー!」

 海翔がパラソルの中から手招きをした。

「あら。優菜ちゃん、クリーム塗ってないの?え?

「うん(・_・)」

「ダメよ。女の子は肌が命なんだから、塗ってこなくちゃ」

 にっこり笑いながら優菜をパラソルの中まで手を引いた。

「行きましょにゅ

 夏休みを利用して盆休みにRest of Cafeのメンバーと伊織家で遠出の旅行に来ていた。

 三つ並んだパラソルの端で俊太がバーベキューの生肉やら野菜やらを良い香りを漂わせながら焼いている。

「肉……きょとん

 雄太は既に紙皿と割り箸を両手に持ってスタンバっていた。

「お前、食い意地はあんのな^-^;

 健二は横目に苦笑を浮かべて言った。

 Rest of Cafeのメンバーは全員で十五人。内の八人がこの旅行に参加していた。

「ねえ、悟ちゃん」

 優菜の身体に日焼け止めクリームを塗りながら、優依加は悟に呼びかけた。

「なあに?」

 クーラーボックスの中から炭酸飲料を取り出して飲みながら返事をする。

「本当によかったの? あたし達まで旅行に連れてきてもらっちゃって……汗

「何言ってんのよ。あんたもたまには生き抜きしなさい。それに、人数余ってるから問題はないわよウィンク

 悟の笑顔を見て、優依加はお言葉に甘えることにした。

「ありがとほわり。

 その時、窓からコンコンと叩く音がして、二人はそちらの方に目を向けた。

(うわっ、女顔っ!え゛!あせる

 高之にはそんな印象らしい。

「悟ちゃん!お~

(助かった……っ)

 内心ホッとする優依加はガラス越しに手招きした。

(あれ以上聞かれたら、ちょっとヤバかったのよねぇ汗

「伊織先生のお知り合いですか?」

「ええ、高校の同級生ですニコ

 そう言ってる間に悟は優依加達の元に着き、高之に手短な挨拶だけ済ませて優依加の横に腰を下ろした。

「お待たせいたしました」

 ウェイトレスが二人分のパスタを持ってきたついでに、悟はコーヒーを注文した。

「悟ちゃんは何も食べないの?」

「さっき済ませてきたところよ。それにしてもビックリしたわー。彼一筋なあんたが他の男と密会してるなんてふふんっ

 悟は目を細めて高之をじろっと見た。

「もう、変な言い方しないでよー。ただの同僚なんだからぁ。それに三島先生に失礼じゃない」

 またしても心にグサッと刺さる高之を悟は哀れに思った。


「それじゃあ、あたし達学校に戻って仕事の続きしてくるわ」

「頑張んなさい」

 高之と肩を並べて歩く優依加を見守るように見送った。

「あれ、店長?」

 背後から声を掛けてきたのはサブマネージャーの中山久司だった。

「久司……」

「あれって、海くんのお姉さんですよね。隣の男って誰?

「ただの同僚よ。見たところ、男の方の片想いみたいだけどねふふん

 久司は「ふーん」とだけ呟き、悟の腰に手を回した。

「それよりも、どうです? これから食事にでもふっ

「あら、いいわね。どこに連れて行ってくれるのかしら?ラブラブ

 悟も久司の腰に腕を回し、踵を返して歩き出した。