「ここ?」
青い扉を開けるのを待ちながら、
サトシが尋ねた。
「そう。
小さな家だけど、どうぞ。」
青い壁、青い屋根。
「おいらんちより、数十倍でかいけど……
似てる。…青い屋根があるとこ、とか。」
細く長い首を左右に回しながら、サトシは、カズの屋敷を見て回る。
「中まで、青いんだな。」
「まあね。」
カズの母も、ここに住んでいた。母は、帝国が占領した星の王室から、皇帝に連れて来られたのだ。
寒い星だったらしいが、真っ白な美しい星だったという。カズは、見たこともないが。
カズが生まれて、わずか一年で亡くなったから。母の記憶はない。ただ、周りの人たちが、カズが母の生き写しと言うから、きっと、自分の姿を見て、母もこんな風だったのだろうと思うだけだ。
ショウの母である皇后に、遠慮して。
こんな庭園の隅に暮らしていたというけど。
本当のところは。
どうだったのだろうか?
物思いに耽るカズを、不思議そうに見つめるサトシに
気づく。
「あ、ごめんなさい。
ぼうっとしてしまいました。
すぐに、お茶でも用意しましょう。」
サトシを食堂に案内する。
宮殿内は、エネルギーは自由に使える。自動で香りのよいお茶が淹れられた。
「こんな香りのお茶、初めてだ。
美味いね。」
カップを口にしたサトシが、ふにゃと微笑んだ。
カズも、一緒に飲みながら、
なぜか、気持ちが落ち着いていくのを
感じた。
「はい、これ。」
サトシが、さきほどの向日葵の種を渡す。
「いいの?」
嬉しそうに受け取るカズを、サトシは見惚れていた。
優しげな雰囲気の中に、儚さを感じる美しい少年だ。
大人びた物言いだけれど。
不思議な薄茶色の瞳に惹きつけられる。
全く。
おいらは、何をしに来たんだよ。
胸が沸き立つ自分を、サトシは自嘲気味に笑う。