妖共~Unearthly Guys~

 第一匹 悪鬼羅刹 2





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 闇夜の静寂の中、影のように蠢く異質なものが、『一匹』。

「きゃぁぁあああああああ!!」

 ―『鬼ごっこ』 スタート―


 ―息苦しい…息苦しい…。

 ―こんなに本気で走ったのは何年ぶりだろう。

 ―いや、もしかしたら初めてかもしれない…。

 蛍光灯のついた電柱の下で、高田亜美は大きく息を吐き出した。

 息を吐き出すのと同時に、彼女の口から出てきたもの。

「何なの…。何であんなのが!!」

 それは『恐怖』、『怯え』等のストレートな感情達だった。

 亜美は両肩を抱くようにして腕を重ねると、その場にへたり込んだ。

 恐怖のために歪んだ顔が、彼女の整った顔立ちを台無しにしている。

 目から流れ出る涙と、額から滝のように溢れ出てくる汗とが混ざり合い気持ち悪い。

 ずっと走りすぎたせいで体中が悲鳴を上げている。

 ―どうしてこんな事になってしまったの?

 亜美は、今現在自分が置かれている状況から少しでも開放されようと過去を振り返った。


 ことの起こりは数時間前。

 その日亜美は、家族のことで友達に相談に乗ってもらう為に行きつけのレストランへと行った。

 その帰り道。

 彼女は見てしまった。

 影のように蠢く身体。

 纏わりつくような血の匂い。

 彼女は見てしまった。

 かつて人類が時代とともにその存在を消し去ったもの

 属に妖怪と呼ばれるものを―


 暗闇の中、『陰』は蠢く。

 音も無く、気配も無く。

 まるで本物の影のように。

 『陰』は不意に口元に笑みを浮かべた。

 「見ぃ~つぅけたぁ♪」

 新しい玩具を前にした子供のように。


 ―寒い。

 亜美は肩の露出が多い服を着てきたことを今更後悔した。

 彼女はまだ電柱の傍から動けずにいた。

 ここにずっといても安全では無いことは十分に分かっていた。

 だが、動かない。動けない。

 今動けば、あの家の影から何かが飛び出てきそうな気がするから。

 足が竦んで動けないから。

 理由はたくさんあったが、全てただの言い訳にしか過ぎない。

 そんな事は彼女自身が一番よく知っていた。

 分かっているはずなのに、動けない。

 心の何処かで誰かに助けを求めている。

 そんな弱い自分がとても醜く思えた。

 ―お兄ちゃん…。

 心にぽっかりと空いてしまった穴の奥に、自分が吸い込まれていくような感覚が体中を襲う。

 また大粒の涙が零れようとしたまさにその瞬間。

 目の前が真っ暗になった。

 さっきまでは蛍光灯の明かりで視界がはっきりしていたが、今はその明かりが無い。

  ―明かり…きれたのかな?

 さっきまで電気がきれる様子を微塵も感じさせなかった蛍光灯に不信感を抱く。

 その思いともに蛍光灯の方に目を走らせてみると…。

 

 蛍光灯は、そこには存在しなかった。

 暗くて見えない、というわけではないようだった。

 消えている部分は蛍光灯だけではないからだ。

 電柱の上の方も、蛍光灯と同じく存在していなかった。

 その部分だけ、闇と同化してしまったかのように…。

 まるで闇色の布で覆われているかのように…。

 ―何か霧のような…影のような…。

 ―影の…よ…う…な…?

 ずるり

 そんな音が聞こえてくるかのように『陰』は―妖は蠢いた。

 徐々に徐々に亜美に近づきながら…。

 ずるり ずるり ずるり ずるり

「きゃぁああああ!!」


 『鬼ごっこ』はもうお終い。

 今日も『陰』は食事前にひとしきり食材で遊んでから、腹を満たす。

 予定だった。

 そう、すべては予定にすぎない。

 未来のことなど誰にも分からない。

 それは人であっても妖であっても変わらない。

 今夜の食事のように、来訪者が来る可能性だって少なからず存在するのだ。


「わぁ~たしも一人ぃ~連絡ぅ~船にぃのりぃ~ 」

「!?」

 闇の何処からか、歌声が響く。

 歌声から判断して、まず間違いなく男というのは判別できた。

 中々良い声をしているのだが、歌の方はそんなに上手いとはいえるものではなかった。

 そんな事はともかく、その声は今の状況に全く合っていないことは確かだった。

 ―誰?もしかしてまた妖怪…!?

 亜美は絶望的な未来を思い描いた。

 二匹の妖怪に己の体が蝕まれる未来。

 だがそれも一瞬だけのことだった。

「・・・・・・・・・・ッ」

 『陰』は亜美以上にその声に警戒していた。

ー良かった。仲間じゃないみたい…。

 かと言って味方とも分からない。

 正体の分からぬ声に『陰』も亜美も動きを止め、その声に聞き入る。

「凍えそうなかもめ煮詰め焼いてみましたぁ」

 ―歌詞間違ってますからっ!!

 とツッコめるという空気ではけっしてない。

「あぁ~~~~」

 声は明らかにこちらに近づいていた。

 ―何処からやって来るのだろう…。

 ―あの右の角から?それとも正面から?それとも…

 亜美の予想は見事に全てはずれた。


「津軽海峡ぉ~」

 歌声は、亜美の遥か上空。

 電線の上。

 ―電線の…上っ!?

 驚愕している亜美とは対照的に、『陰』は場所を特定するとともにそちらへ向かって飛んだ。

「冬景ぇ~色ぃぃいい??」

 電線の上の男は、突然目の前に現れた影に驚いたように語尾を上げた。

 ずるり ずるり

 歌っていた男の声はもう聞こえず、夜の闇に『陰』の動く音だけが響き渡る。

 ―ここからじゃよく見えない…。

 上で何が起こっているのか確認しようとした刹那―

「邪魔だぁあ!どけ、でかぶつ!!」

 馬鹿でかい声とともに、腹部を男に蹴られ、背中から地面に落下していく『陰』が亜美の横を通り過ぎた。

「ぐぇっ」

 『陰』は地面に派手に叩きつけられると、死んだかのようにぴくりとも動かなくなった。

 

 『陰』を地面に叩きつけた、歌声の主は青年だった。

 意識を失っているのか、はたまた死んでいるのか、『陰』は動かない。

 そんな『陰』の上に、何の躊躇いも無く乗っている青年を亜美は尊敬とも恐怖ともつかない瞳で見つめていた。

 綺麗な金髪は頭の後ろでお団子しばり。

 その髪の下には切れ長の瞳をもつ、クールな顔立。

 服は赤色をメインとした、中華服と和服が混ざったような格好。

 そして人とは思えぬほどの力。

 亜美は不思議な存在感を放つ青年に、暫く見入っていた。

「どうかしました?」

 青年の声で彼に見とれていたことに気づき、慌ててお礼を言う。

「あ、あの!ありがとうございました!!」

 深く頭を下げたのは、赤くなっているであろう顔を隠す為というのは内緒である。

「?」

 青年はいまいち状況を理解出来ていないのか、小首を傾げている。

「えっと…私その…化け物に襲われてて!!それでっ」

「あぁーなるほど」

 そこで青年も納得がいったらしく、手をぽんと叩く。

「そりゃ都合が良かった」

 笑いながら、軽く言い放つ。

 ―都合とかそういう問題じゃないと思うんだけど…。

 そう思ったが、あえてそれを心の内に留めておく。

 ―それよりも化け物は…どうなったの?

 その心を読んだかのように、青年は口を開いた。

「まだ死んでねぇよ?気絶してるだけ。でもまぁ暫くは気絶してんじゃねぇかな?」

 それでも気味が悪いことには変わりない。

「俺、雷千(ライチ)」

 亜美の前にすっと手が差し出される。

 手を差し出してきた時、ほのかに酒の香りが亜美の鼻腔をくすぐった。

 よく見ると、顔が少し赤い。

 ―酔っ払ってたから歌ってたのね…。

「私高田あ…」

 妙なことに納得しながら、握手しようと手を差し出そうとした刹那。

 亜美は本日何度目かのおぞましい光景を見た。

 視線の先は下。

 『陰』が雷千の足に絡みついて…絡みついて…

「っあ!?」

 雷千の身体が横に傾く。

 バランスの崩れた雷千の身体を『陰』が包み込む。

「!!」

 さっきまで死んだかのように動かなかった『陰』がむくりと起き上がった。

「人間風情が…妖をなめるなよぉ?」

 地の底に響くような声だった。

「このうるせぇガキは後回しにして…まずは女ぁ…てめぇから食ってやるよ」

 頼みの綱の雷千は、『陰』に取り込まれてしまい姿が見えない。

 ずるり ずるり

 ―私はあの暗くて気味の悪い口の中で息絶えるのだろうか…。

 ずるり ずるり

 ―ごめんなさい、お兄ちゃん。私…ワタシ…

 亜美が死の覚悟を決めた、その時。

「おい。だぁれが人間だって?」

 『陰』の腹部あたりから声が響き渡る。

 その声はまさしく『陰』に飲み込まれた雷千の声。

「俺も…手前と同じ妖怪だぜ?」

 刹那、『陰』の腹部が弾け、中から雷千が飛び出す。

「ああああああああああああああ!!!!!」

 大きく開いた腹部から光が溢れ出し…溢れ出し…

 ぱんっ

 『陰』が結晶のように弾ける。

 『陰』の残骸が黒い雪のようにちらちらと道に積もる。

 それはなんとも言えず幻想的で、美しくて。

「すごい…」

 自然と亜美の口から言葉がもれる。

「んー?」

 頭に積もった黒い雪を払いのけながら、雷千はまた不思議そうな顔をしている。

「ああ、えーと…高田さん?怪我とかねぇ?」

「うん。大丈夫!!」

「ふーんそう」

 興味のなさそうな口調だったが、顔はにっこりと微笑んでいた。

 寒さからか亜美の顔が薄く桜色に染まった。

「あ、ところでさぁここどこ?」

「はい?」

 その後の説明をするのに約一時間。


 一人の人間と一匹の妖怪の間に刻一刻と刻まれてゆく『繋がり』。

 それはたとえどんな小さなものだったとしても、繋がっていることに変わりはなく。

 『繋がり』は徐々に徐々に広がっていき、そしてひとつの世界を作り上げる。

 それが良い世界であろうとなかろうと。

 今日も世界は広がっていく…。


 星の瞬きがキラキラと光る中、雷千は戻るべき場所へと向かう。

 そこは一軒の家の前。

 「おかえりぃ~」

 雷千が扉を開くより早く、中から少女が飛び出してきた。

 「おう。ただいま、ミイ」

 ミイと呼ばれた少女はにこにこと笑いながら雷千の後に続き、明かりの灯る家の中に入っていった。

 後に残るは、静寂のみ…。



★あとがき★

 こんにちはor初めまして!!雷武です♪

 ルームを訪問して下さった方、ピグで会った方等はご存知かと思いますが、このたび私は名前を変えました!!ここまで小説を読んで下さっていれば分かることと思いますが…前の名前(雷千)が小説の主人公と名前が被るので変えました。と、いうわけで名前は変わりましたが、これからもよろしくお願いします♪

 さて、私の名前の変更というどうでもいい事は置いといて…。更新もんの凄く遅れてしまってすいませんでしたー!!(ハイパー土下座)リア友に「あんた全然小説更新してくんないじゃん!!さっさと更新しなよ!!」などという無責任な事を言われまくったので、雷武に変な闘争心が芽生えてしまいましたよ…。今ここに誓います!!これから雷武は頑張って毎週月曜日ブログを更新することにします!!あ、でも忙しい日は抜きね←

 あとこの「妖共」はアメンバーさま限定にさせてもらうと前書きましたが、何故か上手く反映されなかったので、全員に公開することにしましたー。

 では長くなりましたが…。ここまで読んで下さった方、本当に有難う御座いました!!続きも宜しくお願いします☆


☆余談☆

 小説の感想、アドバイス等ありましたらコメントくださると有難いです!その他にも、キャラへの質問等ありましたら気軽にどうぞ~☆