自主性を養うために必要な「見守る力」 | 杉浦文哉オフィシャルブログ「スポーツライターは現場でしょ!?」Powered by Ameba

自主性を養うために必要な「見守る力」

中日ドラゴンズを8年間で4回リーグ優勝に導いた落合前監督。その監督が1年目から従え、「私が、またユニホームを着るなら必ず森繁和を呼ぶ」とまで言わせたのが投手コーチとヘッドコーチを勤めた中日ドラゴンズ前ヘッドコーチ・森繁和である。

確かに中日はリーグ優勝した4回のいずれもチーム防御率も1位で、8シーズンで防御率が4位以下になったことは2005年の1度しかない。この好成績を残せたから、落合監督にその手腕が認められて前述のコメントがあったと思われるかもしれない。

しかし、そんなに浅くはなく、落合監督の部下に任せる信頼感とそれに応えようとした著者の考えと行動力があったからである。

落合監督といえば、三冠王を3度獲得した日本プロ野球界きっての好打者である。打てない選手がいればあれこれ指導したくなるだろう。それは投手であっても同じだったはず。
しかし、それをあえてせずにコーチに任せる。コーチとしては監督の期待に応えようと頑張る。
著者は、選手が自分で考えられるようになる事をゴールとし、そうなるために環境を用意することがコーチの役割として動いた。そのため、コーチが自ら指摘することを極力避けた。アドバイスをするときも、「こうすればよい」ではなく、「こういうやり方もある」と選択肢を与えて選手に考えさえるように促す。

このような選手の人材育成能力を落合監督が著者を評価した点であろう。この人材育成をプロ野球界で行い強豪を作り上げたのが、80年代の西武ライオンズと、90年代後半からの福岡ダイエーホークスだろう。そして、この2チームを作り上げたのが故・根本睦夫氏である。「見守る力」と副題がついているが、著者は根本氏からその重要性を聞かされており、また落合監督は現役引退後に根本氏から著者のことを薦められていたという。
つまり、2人のつながりは9年前ではなく、その前から根本氏によって運命の赤い糸で結ばれていたのだ。

以前の巨人のように良い選手を集めても勝てない。勝つためには素質のある選手を成長させるために良い指導者必要であり、そのために指導者の待遇改善に努めたのが根本氏であり、落合前監督だった。しかし、それがフロントには理解されなかったのだろう。「落合監督は金がかかりすぎる」という理由で2011シーズンで解任された。
2012シーズン末に阪神も中村勝広氏がGMに就任するなど、多くのチームがGM制度を導入している。しかし、著者はアメリカ流のGM制度を導入しているチームはコーチ陣の待遇が低く、中・長期的な視点で選手を育てない傾向があると懸念している。

2012シーズンは大補強と若手の台頭が当たった巨人が当然の優勝をしたために、2位でもある程度の評価をされた中日だが、2013シーズン以降どうなるか?


参謀―落合監督を支えた右腕の「見守る力」