***
時計の音が鳴り響いている。カチコチ、カチコチ…と。
頭に過ぎるのは昼間のレイアの事だ。
左手にあったはずのホクロ、それが今日となって消えていた。
“誰…なのだ?彼女は一体”
考えをめぐりめぐらさせている時、不意に携帯の着信がなった。
着信の相手は『仁辺レイア』からだった。
僕は携帯を手に取り、レイアからの着信に出る。
「…もしもし?レイア?」
「岬くんですか?レイアです」
相変わらず淡々とした声でレイアは出た。
「今、平気ですか?」
今と言われ、時計を確認すると時刻は23時をまわっていた。
「…平気だけど、どうして?」
「平気でしたら馳剛公園に来てもらえませんか?」
「…いいけど、今から?」
「はい」
おかしい。これは本当に『仁辺レイア』なのか?
本物の『仁辺レイア』なのか?
なぜこの時間帯に、しかも町から少し離れてる公園に呼び出したのか?
「…あぁ、わかったよ。今から向かうね」
プツッ──。
電話を切りノイズに耳を貸しながら暫く考える。
「…よし、会おう」
僕は決意を固めレイアに会うことにした。

***
時刻は23時53分。
生温い風が肌を伝う。
「蒸し暑いわね…」
赤眼で人形の様な美しさを持った少女、仁辺レイアはそう呟いた。
少し町から離れた馳剛公園に今、彼女はいた。彼女のクラスメイトであり、この事件を解決した相棒であり、そして彼女の想い人である人を待つため。
暫くして、時間が経つと、薄らと奥の方から人物が来るのが目に見えた。
「岬くん、ですか?」
彼女はその人物に向けて問おた。
彼女に近づくに連れ、その人物の姿ははっきりとしていった。
「…岬くん!」
千縞岬だった。
レイアは嬉しそうに彼に近づいていく。
「来てくれてありがとうございます!」
嬉しそうに、微笑みながら彼女は言った。
しかし、彼は違った。
何かを疑うような目で無表情で彼女を見つめた。
「みさき、く…ん…?」
引きつった笑みを浮かべ彼に触れようとしたその時──。
「レイア…キミは一体誰なんだ?」
ドスのきくような低い声で彼は言った。
彼女はビクりと身を震わせ手を引っ込め、下を俯いた。
「私は…仁辺レイアです。御崎里中学2年1組学級委員の仁辺レイアです」
声を震わせ、静かに、静かに、彼女は言った。
「じゃあ、あれは〝誰〟だ?」
「うるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁあい」
彼女は顔をあげ鬼のような形相をすると金切り声をあげると、彼に向かった。
「冷静で、頭も良くて、何でも出来て、完璧で誰よりもなんでも出来る私よ!仁辺レイアよ!」
人格が変わったかのように叫びながら、笑いながら彼女は言っていく。
岬はそんな彼女に近付いてゆき、静かに、抱きしめた。
そして、耳元で小さく、
「〝仁辺レイア〟ありがとう。君はもう頑張ったよ。お疲れ様」
と言うと、彼女は子供の様に泣きじゃくりながら
「ごめんなさい、ごめんなさい、ありがとう、ありがとう」
そう何度もつぶやいていた。綺麗な顔をくしゃくしゃにしながらそう何度もつぶやいていた。
彼は何を言うでもなく、彼女を強く抱きしめ、そっと頭をなで続けた。
「もう、いいんだよ。終わりにしよう」
彼は最後にそう言った──。

***
あれから幾らか時はたち、僕達2人は高校生になっていた。
「岬、見てください!テイカカズラが綺麗に咲いてますよ!」
美しい白い花たちを指差し凛とした可愛らしい笑みを浮かべている。子供の様にはしゃぎ、数々の花を見つめ、匂いなどを嗅いだりして、楽しそうにしている。
僕は、そんな彼女を見つめて一輪の花を目の前に差し出した。
「紫色のチューリップですか?」
レイアは不思議そうに花と僕を交互に見つめた。
僕は彼女の前に膝立ちをし、指輪を差し出しこう述べた──。
「レイア、僕と結婚してください。貴方を永遠に愛します」
レイアはポロポロと涙を流し不器用な優しい笑みを浮かべこう言った。
「私も、岬を永遠に愛します」
指輪を手に取りはめ、涙でくしゃくしゃになりながらも笑顔で僕に応えてくれた。
「岬、ありがとう」
今までで一番の輝きを、最高の笑顔を向けてくれた。

───爽やかな夏風と高原に咲くたくさんのテイカカズラが僕らを祝福してくれるように感じた。


The true end











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