すると5分と経たないうちに愛しい妻がやってきた。
本を読んでいる俺を気遣ってか静かに隣に座るとこちらの様子を伺っている。
そんな様子が愛らしくて本から目を離しちらりとそちらを向くとまるで鼻を咲かせたように屈託ない笑顔をみせてくれた。
「シン君、ちょっと聞いていい?」
「なんだ?」
好奇心旺盛な妻のいつものセリフ、経験上ろくな事はないので本に目を戻し素っ気無く応える。
「シン君て私の事いつから好きだったの?」
予感的中……。
今更何を言い出すのやら、まったく何時もながら妻の思考回路にはついていけそうもない。
結婚してもう何年も経ち毎日子供達へ注ぐ愛と同じように妻への愛も変わる事はないと言うのに。
本当に今更な話である。
何事もなかったように本を読み進める俺の様子に引き下がらない妻は俺の腕をがっちり掴んで離さない。
その見つめる鋭い目といったら獲物を捉えたかのように光を放っている。
はぁ……。
結局俺は妻のお願いには逆らう事ができないのだ。
諦め顔の俺を見て、嬉しそうに微笑む妻の顔に一生勝てる事はないのだろう。
「なんでそんな事ききたいんだ?」
「だってもうすぐ結婚して10周年の記念じゃない? なんだか出会った頃を思い出しちゃって。
それに最近子供達から昔の事を色々聞かれちゃって、懐かしくなっちゃった」
「そんな事子供達に話すのか?」
冗談じゃないっ!
あの頃の話なんて、父親の威厳いやいや皇帝としての威厳が損なわれるじゃないか。
いくらこの妻の頼みでも子供達から後々笑われるのは御免被りたい。
俺は思い立ったように立ち上がった。
「そろそろ公務の時間だ、じゃあ行ってくる」
「あっ逃げる気? 待ってよシン君~」
執務室へと急いで逃げ……いや向かおうと足を進めるも後ろから走ってきた妻に早々に捕まってしまった。
皇后が宮中を走り回るなんて……、悔しいから後でチェ尚宮に告げ口をしておこう。
「ねぇシン君、だめ?」
妻の最強の武器。
これを出されてはもう手も足もでない……。
そろそろ観念するしかなさそうだ。
「一度しか言わないからなっ!」
そう言って妻の耳元に囁くとこれ以上ない笑顔が広がった。
その笑顔に免じて許してやるけれども、もう2度とこの話はしないからな。
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