化粧を始めた瞬間、私は商品になる

私が「彩」になる瞬間は、化粧を始めた瞬間からだ。

ファンデーションを手に取った時点で、もうスイッチが入っている。
今日も仕事が始まる。
今日も「求められる誰か」になる。

私は、夜の仕事をしている。
人と向き合うことが仕事で、
その時間、私は「商品」でもある。

化粧をする時間は、嫌いじゃない。
むしろ整っていく感覚は、少し気持ちがいい。

でも同時に、鏡の前で少しずつ、
「本当の自分」が奥に引っ込んでいく感じもある。

眉を描いて、リップを引いて、髪を整える。
そのたびに、私は「私」から「月村」に近づいていく。

スイッチが入る感覚と、
自分が少し消えていく感覚。

その二つは、いつも同時にやってくる。

人が嫌いなわけじゃない。
お客さんが嫌いなわけでもない。

でも、ずっと「商品」でいる時間は、
思っている以上に疲れる。

気づいたら、現実の人と向き合うことに
少しずつ疲れを感じるようになっていた。

だからなのかもしれない。

気づけば私は、
2次元の男性にばかり安心するようになっていた。