後ろから、「こんばんは」と声がした。
 
 
 千佳と彼の友達はテーブルへと歩いていく。
 
ゆっくり振り返ると彼が立っていた。私は彼を一瞬見て下を向き、振り絞って挨拶する

 

 

 

「こんばんは。。」

 

「こちらへどうぞ」

 

 

 

彼は、奥へと私を案内する。

扉を開けると、広い部屋だった。

 

 

 

「ここの方が周りを気にしなくていいので・・音楽かけますね。

何を飲みますか?」

 

「えーっと、グラスホッパーを」

 

「ちょっと待っててください。」

 

 

彼は、音楽をかけて出て行った。全身の力が抜けた私。そのままソファーに倒れ込みそうになる。

どうしよう。

 

スマホを取り出し千佳にメールする。

 

 

:ねぇ、帰ろうよ

:何を言ってるの、こんな機会ないよ

:こんな機会なくていいの

:また逃げる気?

:うん、逃げたい

:じゃ、ライン交換したら帰ろう。メールして。

:そんなの無理だよ

:はいはい、通信終了です。

 

 

もう千佳ったら、意地悪すぎる。。。

 

 

 

扉が開いて、ユイ君が入ってくる。トレイには、カクテルとビールがのっている。

 

 

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「はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「会えるなんて思ってなかったから驚きました」

 

「歌、上手なんですね。素敵です。」

 

「叔父さんのバーなんです。時々、アルバイトさせてもらってて。いいお小遣いになるんですよ。いつもと違う感じなのでストレス発散になってます」

 

 

 

 

「一緒に来ていた人は、友達ですか?それとも会社の人ですか?」

 

「彼女は高校時代からの親友です。千佳っていいます」

 

「千佳さんて言うんですね。あっ、そういえばこれ、ジャンパー受け取りました」

 

私は慌てて

「あっ、すいません!ほんとは、ちゃんと返したかったんですけどタイミングがなくて困っていたらお友達を見つけたので・・・」

 

「たぶんそんなことだろうと思っていましたから、大丈夫です。気にしないでください。」

 

彼は、優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

お皿の上のナッツに手を伸ばす。

 

「ねぇ、陸くんはいくつ?」

 

「俺ですか?二十二ですよ。女性に聞いたらダメですよね?」

 

少しためらう素振りを見せながら聞いてみた。

 

 

 

「そうよ、聞かずにここは流すべきね。大学生なの?」

サラッとかわされた。

 

「そうです、大学四年です。今年卒業して、四月からは社会人です。」

 

「お二人は何してるんですか?」

 

「私は医療関係よ。雪は、営業マンでいいのかな?」

 

「ぼくの予想では、千佳さんはナースっぽいです。雪さんが営業なのには驚きました。受付や秘書とかかな?って勝手に思ってました」

 

「アーァ、わかるわ。でも雪はあー見えてやり手の営業よ。年に数回は、海外出張もあるし、普通の出張なんて毎月だし。そこら辺の男には、負けないと思うわ。」

 

「うわー、ハードル上げましたね!それって、警告ですか?」

 

「そーじゃないけど、並大抵の覚悟では雪の全ては理解できないと思うわ。好きだけでは、どうにもならない事ってあるでしょう。全てを受け入れる覚悟を決めても、実際には受け入れられない人がほとんどだと思う。

あなたの友達はどうかわからないけどね。」

 

「そーなんですか。

ユイは、俺が知ってる友人の中で一番の男ですよ。カッコよくて優しいとかじゃなくて、あいつは曲がった事が嫌いで、好きな子以外には見向きもしません。一度決めたら、まっすぐな奴なんです。周りに振り回されることもありませんし、大学でも優秀です。一流企業に採用も決まっていて、卒業式では卒業生代表も務めます。」

 

「そうなのね、雪にはハードルが高そうね。」

 

「えー、そんなことないですよ。お似合いだと思いませんか?

美男美女だし、相思相愛になりそうだし。」

 

千佳さんはオレをじーっと見た後静かに答えた

 

 

 

 

「どうでしょうね。まぁでも、今の私は彼の味方よ。私からのアドバイスを彼に伝えておいてちょうだい。見えるものが全てではないから、見えないものが見えてしまった時、果たして君は目の前から逃げずにいられるのか。全ての物事は過程よりも、最後の結果が大事だってね。」

 

 

 

 

 

 

 

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「雪さんは、よく図書館に行くんですか?」

 

グラスをテーブルに置きながら彼女に聞いた。

 

「時々です。私、家で仕事ができなくて・・・職場に夜遅くまで残っているのも怖くて、でも図書館なら、人がいるので安心できますから。それに本も借りれるので」

と彼女は笑う

 

「本、好きですよね。いつも読んでいるの見かけるので。」

 

「えぇ、買ったりもしますが、借りるのが好きなんです。」

 

「映画とかも好きですか?」

 

「えぇ、好きですよ。レイトショーを一人で見に行ったりします」

 

「今度一緒にどうでしょう?ラインの交換しませんか?」

俺はさらりと聞いてみた

 

「えっ、あのー私、・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ライン交換終わった頃ですかね?」

 

「さぁー、どうでしょうね?」

千佳さんは不満げに答える。

 

「えーぇ、どうして?メールだけですよ。」

 

「普通ならそうよね、でも相手は雪だから」

 

千佳は笑いながら、最後の一口を飲む。」

そこへ、雪さんが小走りに歩いてくる。

 

 

 

「千佳、そろそろ帰ろう?」

 

千佳さんは雪さんを見てすぐに席を立つ。

 

「そうね、帰りましょう。またね、陸くん!」

 

千佳さんが手をあげる。

 

「あっ、はーい。お気をつけて。」

俺も手を振る。二人は帰って行った。

 

 

 

後ろから、

「よう、」

とユイの声がした

 

「お前遅いよ、もう帰ったぞ二人」

 

「あーぁ、分かってるよ」

 

「で、ちゃんと聞けたか連絡先?」

 

「なぁ、なんか飲もうぜ」

 

陸の問いには答えず流す。

 

 

「まさか、お前、断られたのか?」

 陸は吹き出さないように口を閉じる。

 

 

「マジかよ。お前が聞き出せないなんて。この世も終わりだな、あはははは、腹痛いわ。ちょっと待ってくれ。マジ、俺今ツボ入ってるわ。」

 

もうダメだと思ったのか、こらえることなく思いっきり笑っている。

 

 

 

「おうおう、それくらいにしておけよ陸」

 

カウンターの奥から隼人さんがたしなめる

 

「だって隼人さん、こいつ始めて振られたんですよ」

 

「振られてない」

 

「連絡先聞けなかったんだから、フラれたと同じだよ」

 

「お前な、」

 

「まあまあ、ほら飲めよユイ」

 

隼人さんがビールを差し出す。

 

 

 

「そうだよ、叔父さんの言う通りだ!とりあえず飲めよ!」

 

調子のいい態度で俺に言う。

 

隼人さんはグラスを拭きながら、

 

「しかし、ユイ、彼女綺麗な人だな、どこで見つけたんだでも訳ありそうだ・・俺の感だけどな」

と言った。

 

それを聞いて思い出した様に陸が喋り始める。

 

「あっ、そういえば

千佳さんがお前に伝えておけって言われたんだ」

 

「何を?」

 

「えーとな、確か、見えるものが全てではないから、見えないものが見えてしまった時、果たしてお前は目の前から逃げずにいられるのかって。

全ての物事は過程よりも、最後の結果が大事だって言ってたよ」

 

「なんども暗唱させられて、疲れたよ。」

 

 

 

 

見えないもの?

 

今の俺には見えないものだらけだ。

 

近づこうにも、近づけない。

 

 

 

 

 

「ところでユイ、俺に感謝しろよ。雪さんのはダメだったようだけど

千佳さんのラインは聞いておいたぞ! どうだ、俺偉いだろ?」

と自慢げに言う。

 

「おーぉ、さすがだな陸

よーくやったぞ、俺が一杯おごってやる」

 

隼人さんがビールグラスに手を伸ばす。

 

「サンキューっす、じゃビールでお願いします!」

 

「おぅ、わかってるよ!」

 

陸は嬉しそうにカウンターに身をのりだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「えっ、あのー私、ラインの教え方わからないから・・もう遅いですし、そろそろ帰ますね。」

私は慌ててバックを掴んでドアへ向かう。

 

飛び出した私は転びそうになる。まっすぐ歩いていくと千佳がいた!千佳に駆け寄り私はお願いする。

 

「千佳、そろそろ帰ろう?」

 

様子を見て察したように

「そうね、帰りましょう。またね、陸くん!」

 

「あっ、はーい。お気をつけて。」

 

陸くんが手を振る。その後ろから、ゆっくりと歩いてくる彼が見えた。

 

 

 

 

急ぎ足で通りへ出る。

 

「で、交換したの?」

と千佳が聞く。

 

「ううん、してない」

 

「なんでよ?彼聞いてこなかったの?」

呆れ顔で私を見る。

 

「聞いてきたよ」

 

「じゃ、どうして?」

 

「ラインの教え方わからないって言った・・・」

 

「オーマイ、雪。一体何時代の人よ、そんな言い訳

それで彼納得したの?」

 

呆れるのを通り越し、少しイラついていた。

 

 

「納得も何も。。私、出てきちゃったから」

 

「信じられない。逃げてきたの?」

 

「怒んないでよ、、お願い」

 

「怒んないけど、彼に同情するわ。今頃きっと、撃沈よ」

ため息をつく。

 

「うん、わかってる。だけど自信がないの」

 

「なんの自信よ、友達なる自信?それとも好きにならない自信?そんなの始まってもいないのに、誰にもわかんないでしょ。」

 

「そうなんだけど、、」

 

「私が陸くんに教えておこうか?」

 

「いや、止めて。今はほんと私ゆとりないから。」

悲痛な声でお願いする。

 

「わかった。

とりあえず、帰ろう!」

 

「うん、ありがとう。」

 

わたしは千佳の腕を取り歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

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コンビニ寄って帰ろうかな。明日のおにぎりの具も買いたいし。ドアが開き、明るい店内へ入る。これとこれでいいかな。レジへ向かう。支払いを済ませ商品を受け取って出て行こうとしていた。

 

「上原さん?」

後ろを振り返ると、森くんがいた。

 

「えっ、森くん?なんでここにいるの??」

 

「実は、友達の家がこの近くなんだ帰り道歩いていたら、上原さんがいたから、つい、入っちゃって。。」

 

「驚いた、久しぶりね。5年ぶり?」

 

「そうだね、ほんとに久しぶりだ。元気?」

 

「うん、元気にしてるよ。変わらないね森くんは」

 

「上原さんこそ変わっていない。綺麗なままだね」

 

「お世辞はいいわよ、お互いいい年齢だし」

私は笑って答えた。

 

 

森君はどこか落ち着かない様子に見えた。

「じゃ、俺向こうだから、上原さん気をつけて帰ってね」

 

「うん、ありがとう!」

 

「じゃ、また」

右手を軽く上げて、そそくさと駅の方へ歩いて行った。

 

 

私はその様子をしばらく見ていた。帰ろう!家へ歩き出す。こんなこともあるんだなー。森くん、変わってなかった。千佳の言う通り、相変わらずカッコイイままだ。確か、彼女はミス桜高で超可愛い人だった。結婚してるのかな、でも何故かそんな噂聞かないし。なんでだろう。。

 

鍵を開けて、静かにドアを閉める。ただいま、小さな声で言う。荷物を置き、着替えを持ってお風呂へ向かう。熱いお湯に浸かりながら、彼のことを思い出していた。教えなくて、彼がっかりしたかな。

 

 

 

 

 

 

 

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ちょっと、せっつき過ぎたかな?

断られるのは想定内だったけど、それでもやっぱりキツイな。どうすれば、心開いてくれるだろうか。近づけば近づくほど、遠くへ遠くへ離れていって最後には消えてしまいそうだ。

 

それだけは避けたい。

 

とにかく

慎重に行動しなくては。

 

 

このチャンスを逃したくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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翌日、私は元気だった。そう空元気だ。彼のことを考える時間が増えている自分に不安だったから。でもそうでもしないと考えてしまうから。

 

今日は天気良くて気持ちいい!

 

掃除も洗濯も終わったし!

そろそろ準備して出かけようかな。

あっ、そうだおにぎり包まなきゃ!

 

 

 

 

 

 


 

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「なぁ、これってそのまま引用していいと思うか?」

 

「どれ、あーぁ大丈夫だろう

この程度なら、笠原教授なら大丈夫だと思う」

 

「よし、あと少しだ。まとめるぞ!」

 

 

「俺、何か飲み物買ってくるよ。何か飲むか?」

 

「コーラー頼む」

 

「わかった」

 

 

今日は天気がいい。

日曜日には最高の天気だ。

自販機の前で少し考える。

散歩がてらにコンビニに行こうかな?

向きを変え出口に向かう。

 

ほんとにいい天気だ。

芝生でピクニックをしてる家族やバトミントンをしているカップルもいる。みんな楽しそうだ。

 

そこに、一際視線を集める3人がいた。

 

 

 

あっ、あれは・・・

シートに座って楽しそうに3人でおしゃべりしている。雪さんと一人は千佳さんだ。もう一人は若い、俺たちより少し下か?ロングの黒髪で腰までのストレート。風で横顔が少しだけ見えた。やっぱり若い、二十歳ぐらいか?それに可愛い。彼女たちを誰もが見ている。そりゃそうだよな、千佳さんもワンレンボブの美人だし。あんなとこでおにぎり食べてたら、目立つな。

 

3人の視線に入らないように方向転換して図書館へ戻る。

 

 

 

 

 

「ほら、」

 

「おう、ありがとう」

 

「外に千佳さんたちがいた」

 

「えっ、マジで?声かけたか?」

 

「かけないよ、今彼女は俺に会うと気まずいだろ」

 

「そーだな、確かに」

 

「3人だったんだけど、もう一人は二十歳ぐらいの女の子だったよ。友達にしては歳が離れているし、年の離れた妹?従姉妹とかかな?」

 

「親戚の姪っ子とかじゃん。可愛いか?」

 

「あぁ、黒髮のロングストレート、昔のお前好みだな。」

 

「マジか、見てこようかな?」

 

「止めろ、気付かれないように

コンビニ諦めて戻ってきたんだからな」

 

「なるほど、じゃさ

俺が千佳さんに雪さんのライン聞こうか?」

 

「いや、彼女が嫌がることはしたくないんだ

機会を見て、俺が聞くから」

 

「そうだな、その方がいいかもな」

 

 

 

俺たちが帰る頃にはもう3人はいなかった。

 

「いないな、帰ったのかな千佳さん」

 

「たぶんな」

 

俺はちょっとホッとしていた。ここで鉢合わせたら、きっと彼女は困るだろうし。それに土曜日セミナーに行けば、また彼女に会えると思っていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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セミナーを終え、資料をカバンへ入れる

事務局へ行き、事務員を見つけて声をかける

 

「あの?上原雪さんは辞めたんですか?」

 

「あーあ上原さんね、いいえ違いますよ。毎週参加できない旨の連絡ありますし、来月分の支払いも済んでいるので都合が悪いだけでは?」

 

「そうですか、教えて頂いてありがとうございます」

 

「いいえ、どういたしまして」

 

 

 

よかった、辞めたのかと思った。さすがに三週間も欠席だと心配だった。

来週は来るだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

来週は卒業式だ。卒業式の後、会いたかった。

 

 

 

「なぁ、準備できたか?」

 

「あぁ、済んでるよ」

 

「さすが、俺の友だ。ところで、雪さんは大丈夫か」

 

「あぁ、来月もセミナー参加するようだから大丈夫だ」

 

「そっか、それならいいよ。仕事忙しいのかな?千佳さんに聞いてみるか?」

 

「いや、いいよ。」

 

聞きたい衝動にかられながらも我慢する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1週間が経ち

卒業式を無事に迎え、俺たちは大学生活を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土曜日がきた。

今日は来ているかもと期待をしつつ足が早くなる。いつもの彼女の席を見ると、誰かが座っている。あれは、千佳さんだ。

 

「こんにちは」

 

「あーぁ、ユイくんこんにちは」

 

「今日はどうしたんですか」

 

「今日は雪の代わり。ここ最近、授業料だけ払っているから、代わりに参加していいか雪が交渉してくれたのよ」

 

「そーなんですか、」

 

「そうなの、うふふ、雪のこと聞きたいんでしょ」

 

「あー、、はい、そうですね」

 

俺は苦笑いをしつつ答える

 

「雪ね、今ロンドンなのよ、出張中。明日帰って来るから。今月は毎週のように出張してるから忙しいみたい。そういえば、明日図書館で書類整理したいって言ってたけど、何時の便かは聞いてないの。あっ、そうそう、これ私たちから卒業プレゼント使ってね!」

 

 

「ありがとうございます。」

 

「そろそろ始まりそうよ」

 

 

席に着き、プレゼントをカバンに入れる。ロンドン出張か、陸からの情報で聞いてはいたが本当に忙しいんだな。

 

会いたかった。再来週は入社式だ。研修も始まる、たぶん俺も忙しくなるだろう。

 

 

セミナーが終わり、千佳さんはもうすでにいなかった。建物を出ると、陸と千佳さんが待っていた。

 

「おう、3人でご飯行こうぜ」

 

「一緒してもいいかな?」

 

「いいですよ、行きましょう。」

 

 

 

 

 

「どうですか、ここ?」

 

「うん、完璧だわ。これなら安心して飲めるし、いい店ね。」

 

「でしょ、探したんですよ」

 

「偉いわ、よく頑張った」

笑って千佳さんが言う。陸は嬉しそうだ。どうやら二人は前もって約束をしていたようだ。

 

「卒業式はどうだったの?」

 

「あーぁ、やっぱりこのご時世でしょう。なんか変な感じで始まったんですが。最後は、外に出てみんなで写真撮影をしたので。それは盛り上がりましたよ。後輩も花束用意してくれてて、嬉しかったですし。ユイなんて、花束いっぱいでダンボール引っ張ってましたよ。もう誰からもらったかもわからないですよ。トランクも花束だらけ、俺たち同乗するつもりだったので。花束やファンレター、プレゼントに埋もれて座ってました」

 

「それは大変だったわね」

笑いながら千佳さんが言う

 

「陸がオーバーなだけですよ」

 

「そう?本当のように聞こえるけど・・」

 二人の顔を交互に見て、また笑う

 

「そういえば、前に図書館で見かけたんですけど3人でしたけど、もう一人は誰ですか?」

 

俺は千佳さんに分かりやすく補足する。

 

「陸じゃなくて俺が見たんです。邪魔したくなくて声をかけませんでした。」

 

「あーぁ、あの時ね、声かけなくて正解よ」

微笑んで答える

 

「で、姪っ子ですか?それとも従姉妹?」

 

「彼女は雪の身内とだけ言っておくわ何?あの子に興味あるの?」

 

「いやー、ユイが俺好みの黒髮ストレートだったって言うから」

 

「あらそうなの、確かに彼女の方があなた達に年齢は近いわね。でもね、彼女に手を出したら、雪が怒るわよ」

 

「へー、あの雪さんが怒るなんて、、覚えておきます。俺、雪さんよりユイの方が怖いですから」

 

「あはは、そうね」

 

笑って、陸の肩を軽く叩く千佳さん。そのあと雪さんの話はでなかった

三人で楽しく飲みながらお喋りをした。陸が学校であった珍騒動や、暴露話で千佳の笑いを誘う。

 

「千佳さん時間大丈夫ですか?」

と陸が聞く。

 

「あっ、ほんとだわ、そろそろね。でも近くに来たら連絡するって言ってたから」

スマホを確認しながら言う。

 

「じゃ、大丈夫ですね!約束がズレたから少しの間一緒にって誘ったんだ」

俺を見て説明する。

 

「ここまで来るんですか?」

俺は聞く。

 

「えぇ、この辺りにもお店あるから大丈夫って言うから」

 

「それって男ですか?」

陸が興味津々に聞く。

 

千佳さんは笑って

「そうよ。」

と言う。

 

「でも、まあ私と雪にとっては弟みたいだから」

 

「それって・・」

陸が聞く途中で声がした。

 

 

「千佳さん?」

 

振り向くと、男性が立っている。

 

「蓮!!なんでわかった?」

 

千佳さんは驚きつつ親しげに喋る。男性は笑顔で言った。

 

「メールに位置情報が付いてましたよ」

優しさが喋り方から滲み出ていた。

 

「あーあ、そうだった。念のため付けたのよね、忘れてたわ」

 

薄いラインの入ったスーツをお洒落に着こなしていた。清潔感があり、何よりも品の良さを感じる。きっと若い頃はスポーツをしていたのだろう。

がっしりとした肩幅がジャケットの上からでもわかる。短めの髪にシャッキとした姿勢、動きに隙がない。三十過ぎぐらいだろうか?

 

その男性は俺たちをみて挨拶をする。

 

「こんばんは」

 

「こんばんは」

俺たちも返す。

 

千佳さんが俺たちを紹介する。

 

「雪とセミナーが一緒のユイ君とその友達の陸くんよ。こちらは蓮、まあ私と雪の弟ってとこね」

 

千佳さんがその男性にいたずらっぽくウインクする。その男性は微笑んだだけだった。

 

千佳さんが立つ。つかさず男性が

「持ちますよ」

と言ってバックの横に置いてあった紙袋に手を伸ばす。

 

「ありがと!」

まるでいつものことのようにあっさりと返事をする千佳さん。

 

「じゃ、私行くわね!ご馳走様」

そう言って、振り返って手を上げて出ていった。

 

陸は上げた手を下ろし、

「弟みたいって弟じゃないんだよな?」

とつぶやいた。

 

「知り合いの弟ってことじゃないか?」

 

「そうだな」

陸は頷く。

 

急に陸が思い出したように

「そういえば、カバンにプレゼント入ってたけど

誰からもらったんだ?」

 

「あーあれ、千佳さんだよ、雪さんと二人からだって」

 

「えー、なんでお前だけ?それ可笑しいだろ」

 

「そーだな」

 

「そーだよ」

 

 そう言われてみれば、俺だけ貰うなんて変だ。確かに陸にもあっていいはずだ、二人からなら尚更だった。

 

 

 

 

 

玄関の鍵をかける。ガラスの器にキーホルダーをのせ、椅子に鞄を置く。

冷蔵庫からペットボトルの水を出し一口飲む。ネクタイを緩めながらソファーにどっしりと座った。天井を見ながら、今日は疲れたな・・・とつぶやく。会えると期待していたからか。

 

たぶんそうだな。

 

後ろ姿でもいいから、彼女を見たかった。存在していることを確認したかったのだ。まるで二人の出来事が、実世界でなく絆創膏やバーでの事も

バーチャル世界での出来事のような気がしてくる。俺の中で現実味がなくなりつつあった。時々不安になり、少し自信が揺らぎそうになる。嫌われたのだろうか。

近づけたと思っていたのに・・これで終わりなのか。そんなのは嫌だった。やっと掴んだチャンスだったからだ。やっぱり、千佳さんに連絡先を聞くか?いや、雪さんから教えてもらわないと意味がない。

 

焦るんじゃないぞ。

待つんだ俺。

 

 

勢いで立ち上がる。

 

 

シャワーを終え、冷蔵庫から飲みかけのミネラルウオーターを取り出す。

喉に冷たい水が流れ込む。カバンからプレゼントが見える。

 

包みを破らないようにそっとテープを外す。箱からケースを取り出し、開けてみる。ボールペンだった。

 

 

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俺の好きな色だ、黒でもないグレーでもない絶妙な色。

 

「Yuichi・H」

 

と筆記体で書かれている。

 

黄色い何かが見えた。付箋だ。箱の底にひっついていた。

 

『卒業おめでとう』

 

雪さんの字だった

 

 

僕は嬉しかった。胸にこみ上げてくる感情を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

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翌日早く目が覚めて、来てしまった。今日帰ってくると分かっているが、足が向かっていた。

 

まだ八時だからか人も少ない。

図書館は九時からだ。

ベンチでも座るか。ランニングをしている人とすれ違う。ラジオ体操をしている人もいる。

 

あった、ベンチ・・・

目が釘付けになる。

 

 

俺の足は早まっていく。

 

胸の高鳴りが早く強くなっていく。

風が吹いて長い髪が揺れた。

僕の知っている香りだ。

 

 

まさか、そんなはずは

その後ろ姿を、幻を見るかのように吸い込まれながら歩いていく。

 

 

俺は確信した。

もう無理だった、、体が自然と動いたのだ。

 

彼女に優しく抱きついた。彼女はピクッと驚き、俺の横顔を見る。

 

 

 

 

俺は泣いていた。

 

もう誰にも止められないこの思いを

苦しかったこの時間

全てが俺の手から溢れでていた。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
次回、『奪われた嫉妬』
 
 
 
 
 
 
 
 

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誤字脱字ないように気をつけていますが、行き届かない点はご了承ください。

 
 
 
第4話こちらです