和泉さんは…
どうして俺の事を受け入れてくれたんだろう…。
まだ、実際に付き合い始めたものの、
どう接したらいいのかが分からない…。
…ずっと一緒に暮らしてきたのに…。
「菊…」
「はい」
「これ…」
和泉さんは俺に、いつも身につけていたペンダントを差し出してきた。
「これがどうしましたか?」
「復讐も終わって、俺には…今、菊が寄り添ってくれていて…。その…うまく言えないが…、秋斗を身につけておくのは…菊に悪い気がして…」
本当は少しだけ、気になっていた。
俺と付き合い始めても、和泉さんは秋斗の写真が入っているペンダントをするのかな…と…。
ただ、そんな事は俺の口からはとても言えなくて、どこか歯痒い気持ちでいた…。
「俺は…どうしたらいいか分からなくて…。菊に預けようと思って…」
差し出されたペンダント。和泉さんの大事な思い出がしまわれているはずなのに、俺に託そうとしているのか…。
「捨てるわけにもいかないし、その…写真を外す勇気は…まだ生まれなくて…。でもこれを付けておくのは、違うと思うんだ。菊を…菊の気持ちを大事にしたいと思ってる…」
彼なりの精一杯の愛情表現なんだろう。
俺はそのペンダントを受け取った。
「菊の好きなようにしていいから。どこかにでもしまって…」
「実は、俺も少しだけ、気になってました。…俺って…ちっちゃいですよね。もう秋斗はこの世にいないのに。それでもどこかで…秋斗と張り合ってて」
「悪かった…。菊の気持ちを考えないで…」
「いえ。気にしないでください」
俺はそのペンダントの金具を開くと、自分の首にぶら下げた。
「菊…」
「俺が秋斗の写真を身に付けてる分には、何もおかしくないでしょ?これは、和泉さんの身に付けてたペンダント。それを俺がもらったんです」
「いいのか…それで…?」
「はい。…それとも…、逆に視界に入ってしまっては、秋斗の事を思い出します?」
その言葉に和泉さんがふわっと微笑んだ。
「俺には菊がいてくれるから。菊がそれでいいなら、俺は…嬉しいよ」
俺は貴方に笑っていて欲しいから、少しだけ背伸びをした。
貴方の思い出まで奪う権利はないから、少しだけ大人のふりをした。
それでも今見てくれているのは俺の事なんだ。
だから、これで良い。
そして、これが良い。
「その代わり…肌身離さずってワケにはいかないですよ?」
「あぁ…。もうそのペンダントは菊の物だ。菊に任せる」
付けたばかりのペンダントを俺が外すと、和泉さんは不思議そうな表情をした。
「…その……、キ…キスとか…それ以上とか…そういう時は外しますから!」
自分で顔面の血流が良くなってる事には、すぐに気付いた。
「分かった」
クスッと笑いながら和泉さんは俺にキスをしてきた。優しく啄むようなキスは、俺の下唇を味わうように何度も吸い上げた。
「おねだりするために、外したんだろ?」
そんなつもりではなかったが…
せっかくだから、そういう事にしておこう。
ーーーーーENDーーーーー
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