日本の力を、信じてる。…って言えない -書評- 彼らが日本を滅ぼす | 知磨き倶楽部 ~ビジネス書で「知」のトレーニングを!~

日本の力を、信じてる。…って言えない -書評- 彼らが日本を滅ぼす


陰謀論系かと思ってしまうようなセンセーショナルなタイトルがついていますが、そうではありません。
また、3.11以降に本書を見ると、どうしても震災対応を想起してしまうかもしれませんが、そうでもありません。

しかし、著者の佐々淳行さんは初代内閣安全保障室長を務められた、危機管理のプロと言われる方。
今、僕らの目前にある「危機」についても当然ご意見があるだろうな…と思ったら、サイトに掲載されていました。
小論2010 小論2010
(2011年3月16日と2011年3月29日の記事です)

今回の震災とそれによる原発の問題が、未曾有の国家的な危機であることに異論はないでしょうが、本書で焦点を当てられているのは「国防」と「外交」の視点です。
目前の危機が大きすぎて遠い過去の記憶のようになりつつありますが、「中国漁船体当たり事件」に象徴されるように、日本という国家は政治的にも危機的な状況にあったのです。


確かに、僕ら日本国民は、自民党の長期政権に嫌気がさし、そこにNoを突きつける意味で、2009年の総選挙で民主党政権を誕生させました。
しかし、鳩山前首相の普天間に関する迷走や、菅政権における尖閣ビデオ流出事件などの具体的な事象を挙げれば限がないですが、短期間に次々と国民を裏切り続けてきた民主党政権は、今や完全に信頼を失っていると言ってよい状況にあると思っています。
そこに来て現在の未曾有の危機ですから、本当に日本という国はどうにかなってしまうのではないかと、かなり心配しています。

民主党政権が誕生した、あの総選挙の時からそうでしたが、根本的に民主党には核となるような大きな構想、この国をどうしていきたいのかというビジョンがありません。
与党になれば出てくるかもしれない…という一縷の期待がなかったと言えば嘘になりますが、そんな僕の考え方はまったく甘過ぎる幻想でした。
佐々さんは、その点を強く指摘しています。

尖閣諸島沖の中国漁船体当たり事件が発生してからというもの、さまざまな問題が一気に噴き出したような菅内閣だが、簡単に大構想を捨ててしまう安直さ、頼りなさに国民は愛想を尽かしているのである。(p.90)
こうしたところに今回の危機が起こっているわけですから、国民が政府発表などを完全に信頼しきれず、混乱に拍車をかけている面があることは否めないだろうと思います。
個人的には、そんな中でも、枝野官房長官は頑張っておられると思っていますけどね。
まあ、政府発表の情報の信頼性という点は別の問題ですし、作業着がいいとは思いませんけど。
(ちなみに、僕は現段階では、事態は政府発表以上に悪いし、深刻だ、という考えです)

震災が起こる前であれば、民主党政権のあまりの不甲斐なさに、Noを突きつけたばかりだけど自民党の方がまだましなんじゃないか、という風潮さえ出ていました。
しかし、それは比較論の話であって、やっぱり自民党だよね!というポジティブな評価では決してありません。

短期間に二度も改造した菅内閣にはなるべき早期に退陣してもらいたいが、問題はその受け皿に自民党がなりうるかということである。
フランス革命のあとで政権に戻ってきた何事モ学バズ、何事モ忘レナカッタブルボン王朝の王侯貴族のごとき自民党の復活では、国民の望むところではない。(p.143)
今回の危機の発生により、菅内閣の早期退陣というのは現実的ではなくなったと思いますが(こんな中で政局に集中されたら本当に国は滅ぶでしょう)、CMで繰り返されている「日本の力を、信じてる」という言葉が虚しく聞こえるほどに、国のトップに起因する不安は大きいものがあります。
日本の力を、信じてる。(AC JAPAN_SMAP×トータス松本) [YouTube]


佐々さんが本書のあとがきで記されています。

一月中は、民主党執行部がすべてを先送りしたため、小沢氏の政倫審出席も証人喚問も、仙谷・馬渕両氏の問責決議の事後処理も、国会開催予定日も検察審査会の小沢氏の強制起訴も離党勧告も、ビデオ流出の海上保安官への地検の決定も、一切合切ごちゃまぜになってしまった。原因は全共闘・団塊の世代特有の「みんなで渡れば怖くない」方式の「連帯共同無責任」、さらにそれをつきつめていけば「菅内閣総理大臣の不決断」に集約されてしまう。こうして2011年は、「不決断の年」として幕開けした。
こんなときに重大緊急事態が発生したら、いったいどうなるのだろうか。
この状態が続けば、彼らは日本を滅ぼしてしまう。(p.231)

佐々さんの危惧が現実にならないことを心の底から祈っています。


※ 本書は、本が好き!を通じて出版社の幻冬舎様より恵贈いただきました。厚く御礼申し上げます。

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■ 関連リンク

著者サイト: 佐々淳行ホームページ


■ 基礎データ

著者: 佐々淳行
出版社: 幻冬舎 2011年2月
ページ数: 233頁
紹介文: 「中国漁船体当たり事件」に象徴される民主党政権のその場凌ぎの対応には、政権担当能力の有無以前に、思想的に憂えるべき問題が現れている。過激と見るか、真っ当と見るか。初代内閣安全保障室長を務めた危機管理のプロが海洋国家・日本ならではの「国防」と「外交」を緊急提言!

彼らが日本を滅ぼす
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