23時11分
カオルはまだ会社のデスクで一人記憶の糸をたどっていた。
少女の一言一言をできるだけ正確に思い出そうとしていた。
「お姉ちゃんね、カオルくんと離婚してからはよくウチに遊びに来てくれてたんだ。ほら、おばちゃんちとウチって割と近かったじゃない?だからってわけじゃないと思うけど、ほんとによくウチに来て遊んでくれたり、勉強を教えてくれたり、家事手伝いをしてくれたりしてたんだ。」
そういえば、元妻の実家は、いわゆる下町で、近所にも親戚が大勢いたような気がする。この少女の父親の葬式の時もかなり大勢の人が集まって来ていた。
「しばらくそんな生活が続いてたわけなんだけど、ある日突然来てくれなくなったの。ううん、正確に言うとね、いなくなったの。なんていうか、うまく伝わらないかもしれないけど、まるで最初からそこにいなかったみたいに、何にも残さず消えちゃったの。」
この少女の話してることが、自分には理解できなかった。
突然いなくなった?消えた?
自分と離婚をして、最低限の荷物を持って出て行った、あの時の光景が脳裏に蘇った。
しかし、その当時に自分が納得していたもの、それは自分とは同じ空間にさえ一緒にいられないというのが、妻の考えや気持ちなのだということであったが、今の少女の話では、状況は似ていてもどうやらそういう理由とは違っているようだった。
その瞬間、その光景がさらに数日前に出会って消えた、例の女性の行動とフラッシュバックした。
と、ここまでははっきり思い出せたのだが、そこから先の会話や行動が全く記憶になかった。
そこでカオルは、19時半前にプライベート用の携帯が鳴り、スーツ女性と通話したことを思い出し、あわててその携帯電話を取り出した。
当然のことながら、着信履歴には19時22分に未登録の電話番号があった。
そして、うっかり消してしまわない様に、携帯の電話帳登録を済ませてから、改めて発信ボタンを押した。
「オキャクサマノオカケニナッタデンワバンゴウハ、ゲンザイツカワレテオリマセン・・」
その聞きなれた定型アナウンスを最後まで聞くことなく、終話ボタンをそっとを押した。
何かがおかしい・・・。