『ねぇ、B、今から行っていい?
電車なくなっちゃったからタクシーで行くけど、ワリカンでいい?(笑)』
僕はそういうことを言う女は大嫌いだけれど
会いたいから
『いいよ。おいで。』
と言ってしまう。
全部出して、と言わないところが、かすかな遠慮なんだろう。
ね、僕が好きになる女は、いつも僕を幸せにしてくれなさそうだ。
まぁでも金なんてどうでもいいさ。
手段であって、目的ではないんだから。
話は昨日に戻って
君を含む四人で、君の家で飲んでいた。
初めて入る君の部屋。
男の子の部屋みたいだった。
部屋に貼ってあるプリクラ
『あ、それ元彼だよー♪そんな奴なのさ。
今はいい友達だよーvまた付き合って欲しいとか言われるけど』
とケラケラと明るい顔で笑う君。
そうか、こんな奴と付き合ってたのか
と思う僕。
皆で馬鹿騒ぎして飲んで。
一人が帰り、一人が酔いつぶれ、
起きているのは、君と僕の二人
寝ている奴を放置し、
ドアを閉め、暗い廊下で腰を引き寄せ、
キスをした。
『好きだよ』
『知ってる(笑)』
間
たぶん、『付き合って欲しい』と言うべき間だったし、
君もそれを待っていたんだろう。
だけれども、僕は言わなかった。
言えなかった。
ただ君を引き寄せて、抱きしめていた。
まだ自分の気持ちがわからないし、
君と付き合っても幸せになれそうにないから。
Aに言われた『また同じこと繰り返すの?』の言葉を思い出す。
色々考えているうちに
『部屋に戻ろっか』
と君が言い、僕はそれにしたがった。
たぶん、君も僕が考えてたことがわかっていたのだろう。
で、今日昼過ぎに帰ってきたんだけれど、
今の電話。
『もしもし、B、私どうしたらいいかわからないの』
『どうしたの?』
『言い寄ってきてた人とその彼女と三人で会うことになったの。
多分、彼女と別れるから付き合ってって言われると思う。』
『そう』
『あと、もう一人言い寄ってきている人と明日会うの。』
『うん』
『でも私どうしたらいいかわからないの。』
『うーん…君はどうしたいの?』
『わからないの。私の中に二人いて、いい私は
「私のことを一番好いてくれる人と付き合うか、誰にも決められなかったら誰とも付き合わないのがいいよ」
っていうの。』
『悪い君は?』
『明日会う人は顔もタイプだし、お金も持ってるし、だいぶ年上だし、
嫌いじゃないし、付き合っちゃえば?って』
『誰が一番、君を好いてくれてるの?』
『Bか、その彼女いて私と付き合いたいから別れるって言ってる人』
『そっか…』
『ねぇ、私どうしたらいいかな…わかんないの』
『うーん…難しいよね
まだ悪い方の君の考え方は、君には早すぎる気がする。
その考え方は二十代後半になってからでも良いと思う』
『元彼にもそう言われた』
間
『ねぇ。B』
『ん?』
『私が他の人と付き合ったら、気持ち変わる?』
『オイラは好きになった人は嫌いになれないんだよ。残念ながら(笑)』
『知ってる(笑)』
間
『ねぇ。B』
『ん?』
『B、馬鹿だよね…』
『んー…』
『Bに足りないのは勇気だよ…』
『勇気かぁ…
オイラも色々悩んでるンだよ(苦笑)』
『知ってるよ
だから、禿げるんだよ(笑)』
『まだ禿げてねーよ(笑)』
『私からは、助けてあげないよ?』
『…。それも知ってる。俺がどうにかしなきゃなんでしょ?』
『そう。それで私が誰かと付き合ってから
「もっと早く言えばよかった」
って言ったら馬鹿だよ?』
『オイラ馬鹿なんだよ。』
『知ってる(笑)』
『バレてたか(笑)』
間
『今晩一人でいたくない』
『ん。』
『ねぇ、B、今から行っていい?
電車なくなっちゃったからタクシーで行くけど、ワリカンでいい?(笑)』
『いいよ。おいで。』
『こういう逃げ道があるっていいよね。
今から行くね、また近くについたら電話する。
今日はオールで飲むよ?』
『はいはい(笑)』
そうして、今、僕の携帯が鳴っている。