「あら、綺麗なお花。お兄様にぴったりだわ」
♪ポトッ♪
「あっ、落ちましたよ?」
「ああ、すまない」
「綺麗な髪飾りですね」
「母の形見なんだ」
「あらやだ、私ったら」
「いいんだ。ありがとう」
「さぞお美しい方だったんでしょうね」
「ああ、でも。君には負けるかもしれないがね」
「んも~。お上手なんですから」
「そうだ、これは君にあげよう」
「え、でも。大切な物なんでしょう?」
「髪飾りって歳でもないし。形見はほかにもたくさんあるんだ」
「ええ、でも。やっぱり受け取れないわ」
「そうか。でも、なにかお礼がしたい」
「いいんです。私は、
綺麗なお花を眺めているだけで幸せなんです」
「そうだ、綺麗な花には危ない虫も寄ってくるかもしれない。
君に、『ツッコミ』を教えよう」
「『ツッコミ』?」
「悪いやからが、『ボケ』を使って近寄ってくるかもしれない。
そういう時に使うんだ」
「はい」
「じゃあ、簡単に教えよう。美しい立ち姿だ。それでいい」
「これでいいんですか?」
「つぎに、
そこの花の空気をやさしく吸い込むように、『ナン』と言うんだ」
♪スゥ~♪
「ナン」
「いい感じだ。次はその空気を、『ン』の時にまとめて固めるんだ。
そこにある岩のイメージだ」
♪スゥ~♪
「ナン!」
「すごい。君は美しいだけではなく芯に強さを感じる」
「え、そんな~。教え方がうまいんですよ~」
「次は、『デヤ』と言いながら一歩踏み出すんだ」
「デヤ」
「それでいい。
葉を撫でる一陣の風をイメージしながらやってみてくれ」
「デヤ!」
「すごく良くなった。君は実に筋がいい」
「え~そうなんですか?
兄には『もっとしっかりしろ』って言われるんです」
「お兄さんは見る目がないな。こんなに美しく可憐に咲く花に、
『しっかりしろ』なんて。君はそのままで完璧さ」
♪バシッ♪
「やだも~」
「それだ。その感じで『デヤネン』と言ってみてくれ」
「デヤネン」
♪バシッ♪
「流れはそれでいい。『ネン』の所で、花が一瞬にして開くイメージでやってみてくれ」
「デヤネン」
♪バシン♪
「いいぞ。完璧だ」
「これでいいんですか?」
「ああ。これを『ナン』から続けてやるんだ」
「ええと。♪スゥ~♪『ナン』♪ザッ♪『デヤネン!』♪バシーン♪」
「あ」
「あ、強くやりすぎました?」
「いや、いいんだ。一目惚れしてしまったかと、
錯覚するほどの見事な一撃だった」
「ナン・デヤネン!」
♪バシーン♪
「!!」
「あ、あらやだ。私ったら」
「いや、使い方もそれでいいんだ。
そうだ、最後に私が『ボケ』で君に絡むから、
『ツッコミ』を入れてみてくれ」
「はい」
「オウ・オウ・ネーチャン」
「ひゃっ」
「ベッピン・サン・ヤノー」
「やっ、やめ」
「チャー・デモ・シバッ」
「ナン・デヤネン!」
♪バシーン♪
この時、ソウは思った。
これは、「ツッコミ」ではなく、ワンランク上の技、
「ノリ・ツッコミ」ではないのかと。
屈強な男達との戦いでも、膝をついた事がなかった彼が、
初めて跪いたのであった。
♪
あなた 覚えてますか
出会った 日のこと
私 覚えてます
あなたの やさしさ
風に 乗って
毎日届くわ
あなたの 笑顔
やさしさ 愛
♪
交わる事の無かった二人の運命。
しかし、宿命とは突然にやってくるものである。
次回、マダヤルン・カイナー「ソンナン・アリ?」。
「ヨロシク・デンガナ・マンガナ!」