春を嫌いになった理由という本を読みました。著者は誉田哲也さん。
去年映画化された武士道シックスティーンも同氏の著作です。
武士道シックスティーンは高校の女子剣道部員二人の交流をそれぞれの視点から描いたものでしたが、
本作はオカルト嫌いの通訳と密入国者の中国人二つの物語が重なり合っていきます。
ネタバレはしたくないので内容は省きますが,一見ふたつの物語はなんの関係もありません。
しかし同じタイトルの小説の中で,平行して二つの話が進行する以上,そこには何かの接点があるはず。
推理小説にありがちな思わせぶりな伏線や、ミスリードを誘うような表現ではなく、
必ずつながりがあるはずの物語、でもどのようにつながるか分からない二つの物語。
前述の推理小説は物語中にちりばめられた、ヒント(結果的にヒントであったもの、も含む。)
探偵が真相を暴く、という動作によって一本に道として完成させる、いわば点と点とつなげて線を描く手法が
大勢だと思いますが,
対して本作は,大きな本筋に沿って小さな物語が平行して進んでいて,読者にそれらがどこかで結びつくことを
予想させます。それは予想通り結末に向けて一本の物語へ収束していくのですが、
その様はまるで、それぞれが組み合わさることは分かるのに、どのように組み合わさっていくのが分からない
パズルのピースのようで、結末できれいな完成品を見せられたなぁと感じるのです。
一夜明けて冷静になってみれば,割とありがちな設定、内容だったな、とも思いますが、
誉田さんの著作は内容だけ見ればありきたりな内容を,読者に没入させる書き方がうまいのかな。
僕が好きな作家さんはだいたい文章の言い回しが好きだったり、
言葉遊びを多用する作家さんが多いのだけれど,
この誉田さん作品はそれとは違う、
ただ単純に内容がどうなるか気になる、この物語の結末がどうなるのかが気になる!
という文章を書ける方だと思います。(武士道シックスティーンと本作しかまだ読んでいませんが。)
オチのつけ方も無理やり感がなくきれいにまとまっています。
結局は僕のツボにうまくはまっただけ、というのも事実かもしれませんが、
これだけうまくツボを疲れたことにもびっくり。
久々に物語の展開のうまさに背筋がゾクゾクッとしたなぁ、 という作品でした。