「こんぷれっくす×コンプレックス」感想【ネタバレあり】 | 元玉拾い(もと、たまひろい)のスポーツとか草花とか

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ふくだみゆき監督「こんぷれっくす×コンプレックス」

下北沢トリウッドでの公開、全20回が終了したので、感想を書きます。

映画内容に関する感想は、ネタバレを大いに含みます。

 

写真は、一部、こんぷれっくす×コンプレックス公式ツイッターアカウントより、

拝借しました。


なぜ、新海誠監督が「こんぷれっくす×コンプレックス」を鑑賞して、「素敵な映画」とツイートされたのか、少しでも伝わるとよいな、と思います。

 

 

 

2017.2.4

 

24分の短編flashアニメが劇場公開された日。

ふくだ監督、上田慎一郎プロデューサー、主題歌を歌う、北村瞳さん

 

わき毛をどうしても見ちゃう、わき毛好きなことがこんぷれっくすの中学2年の女の子

小谷ゆいちゃん役・林奏絵さん

実写映画と一緒に審査する、2つの映画祭で女優賞を受賞しています。

 

わき毛が濃いことがコンプレックスの中学2年の男の子

武尾マサト役・上妻成吾くん

 

 

 ゆいちゃんの友達で、生徒会で一緒の先輩と付き合ってる、しっかり者

中村ふみちゃん役・春名風花さん

 

はるかぜちゃん(春名風花さん)は、当時小学校6年生で、所属していた子役事務所には、自分がやりたい声優の仕事がこないことから「自分で取りに行った」と、この映画のオーディションを受けて、見事に役を射止めて、本作が声優デビュー2作目です。

 

公開初日が16歳のお誕生日だったので、舞台挨拶時に、サプライズで北村瞳さんが主題歌「こんぷれっくす」を歌う・・と見せかけて、キーボードは

 

♪ハッピーバースデー

 

客席からは、事前に配られていたクラッカーが鳴り渡って、その時のことが、

日刊スポーツに動画付きで記事になっていました。

 

日刊スポーツの記事『春名風花、誕生日サプライズ祝福に「呼吸困難」』、こちら

 

 

 

この3名がヤングチームの声優さん。

 

アダルトチームの声優さんは

 

ゆいちゃんのお母さん役・広江美奈さん

ゆいちゃんのお父さん役・武田直人さん

ゆいちゃんのお姉ちゃん、小谷まいちゃん役・山口遥さん

先生役・岡田昌宣さん

 

 

それでは、これから、ネタバレありで、感想書きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絵はとっても丁寧でキレイですし、目が実際にはあり得ないほど大きな「アニメ」的ではなく、アニメと写実の中間くらい。動きが少ない分、観ている自分が頭の中で補完して、そのことがよりストーリーに入り込めた一因ではないかと考えています。

 

長さも24分だから、全体の台詞量も少ない。少ないんだけど、しっかり伝わってきます。例えば、ゆいちゃんのお姉ちゃんの会話は1シーンだけだし、お父さんとは1シーンだけで、かつ、お父さんの姿は一切出てこない。お母さんも出てこない。それでも、ゆいちゃんは、決して特別な(特異的な)ことはなく、友達みたいに仲良しのお姉ちゃん、反抗期も無く大好きなお父さん、ゆいちゃんを個人として尊重しつつ、いつも優しく見守っててくれるお母さん。ごく普通の温かい家庭の次女。

 

「わき毛が好き」という、一見、キワモノ?と思わせるけど、実際はどこにでもいる、自分かもしれない、それがゆいちゃんなんだなって。

 

説明っぽい台詞は全く無いけど、そうした、ゆいちゃんのバックボーンが少ない会話で頭に描けるのは、声優さんたちの演技力の賜物ですね。

 

ゆいちゃんは、唯一、全員と会話があります。友達のふみちゃんと話すとき、お母さんと話すとき、武尾くんと話すとき・・その微妙な演じ分けをする奏絵ちゃんは、さすが女優賞を映画祭(蓼科高原、FOXムービー)で受賞したのもうなずけます。

 

かつ、ふみちゃんと話しながら歩いて下校するときの話し方も、会話内容によって、声の表情が違うし、それが武尾くんとの会話になると、更に多くのバリエーションになります。

 

メイキング映像、2回観ました。顔合わせの日に本読みをして、次に声優陣が集まった日は、もう収録。こんな短期間に、これだけのことが出来ちゃうっていうのは、衝撃でした。なんせ、奏絵ちゃんは本作が初めて受けたオーディション。収録した3年前は、まだほとんど演技経験は無かったはずです。それが、これだけ出来ちゃうのは、本人の資質と、ふくだ監督の演出力が非常に高いのだろうなぁ。

 

不安定さを録りたかった、あえて崩した、とアフターイベントのティーチインや舞台挨拶でふくだ監督がおっしゃっていました。そんな中、ふみちゃんは、先輩と付き合ってる、1歩先行くおませな子なので、3人の中で、唯一、しっかりと話してました。

 

ゆいちゃんは、わき毛が濃い(大人と比べても、外人さんと比べても、ブルース・リーと比べても、武尾くんが断然、1位!)武尾くんをいつも目で追っちゃいます。

 

おとなみたい(わき毛=おとな、がゆいちゃんの想い)

 

ふみちゃんが先輩と付き合ってることを、「付き合うってさ、どんな感じ?」とゆいちゃんに聞かれると、

「楽しいよ」

 

おぉ、おとなですねぇ

 

「もう、やめてよぉ」

 

でも、中盤まで、ゆいちゃんが「わたし、わき毛が好き」と言葉では言ってません。

自然とゆいちゃんワールドに観客が入り込んでる感じ。

 

収録時、ちょうど声変わりの真っ最中で、声がふつうに裏返っちゃう武尾くん役の成吾くん。

お姉ちゃんに頼んだら、前髪が短くなり過ぎちゃったゆいちゃん、それに気付いた武尾くんが

 

「なんか、マチルダみたいだね」(この”マチルダ”が、max声が裏返ってて、それが、今、このときしか録れない声、を如実に物語ってます)

 

と、ゆいちゃんに言ったことがキッカケで、ふたりの距離が近くなっていきました。

 

ネットで調べて、マチルダっていうのが、映画「レオン」に出てくる少女だと知り、

早速、お父さんに頼んでTSUTAYAに行き、DVDで「レオン」を観て、

そのことを武尾くんに話し、好きな映画の話になって、武尾くんは

「カンフー、まじ、最高!」

 

武尾くんが、こっそり(クラスメイトにばれると、そういうのって、からかわれるかれね)カンフー映画のDVDを貸してくれます。

 

最初は観てても退屈だったゆいちゃんですが、決闘シーンで上半身裸なので、わき毛が!

 

おぉ!あっ、そこ、あっ、ぅお、あー、惜しいぃ

 

「面白かったぁ。スリルって言うかぁ、わくわくって言うか、チラリズムって言うか」

「チラリズム?」

「あっ、観ていて、体が動いちゃうっていうか。とにかく、カンフー、サイコー!って感じ」

 

自分が好きなものを「サイコー!」って言ってくれる女子は、そりゃ、男子にとって、

嬉しいよね。


「そうなんだよ、小谷さん分かってるねぇ。カンフー、最高なんです。女子でカンフー好きって、はじめてだよ」

 

ふたりは休み時間の教室でカンフー映画について話してるとき、

ゆいちゃんは、カンフーについて熱く語ってる武尾くんに、

上の空の相槌を打ちながら、目は袖がまくれあがった、半袖のYシャツからのぞいてる

わき毛にくぎ付け。

 

武尾くんには気付かれてないだろうという、上の空感が、

翌日の悲劇へとつながり、ゆいちゃんの声の張りが一気になくなりました。

 

武尾くんが、わき毛を剃っちゃったのは、自分がチラ見(ガン見)してたせい?

武尾くんがわき毛を剃っちゃったことがショックだったのに加えて、

それが自分のせいだと思い、ますます落ち込む、ゆいちゃん

 

目的は違えど、カンフー映画という共通の話題で親しくなったゆいちゃんと武尾くん

 

わき毛を目で追っちゃったことで、気まずくなったゆいちゃんと武尾くん

(武尾くんとしては、気まずいではなくて、「訳分かんねぇよ」)

 

そして、意を決して、ゆいちゃんは武尾くんに告白します

 

「好きなの!」

 

(自分の趣味をサイコー!と言ってくれた、ゆいちゃんだから)

「オッ、オレも」

 

「わき毛が」

 

「えっ、あ、はぁ??」

 

ゆいちゃんは、わき毛が好きで、どうしても目で追っちゃうこと、

中でも武尾くんのわき毛は、1番なのってこと、を告白しました

 

このときの告白は、武尾くんが好きなんじゃなくて、

武尾くんのわき毛が好きなんだよね

 

でも、武尾くんにしてみれば、クラスでひとりだけわき毛が濃いのが、

気持ち悪いとコンプレックスに思ってて、

 

自分の趣味じゃなく、今度は自分のコンプレックスを好きだと言ってくれた。

コンプレックスからの解放と嬉しさとで、武尾くんは泣いてしまいます。

 

「1番って言ってくれて、救われたっていうか、嬉しいよ」

 

ゆいちゃんからしても、「わき毛が好き」という、こんぷれっくすに対して、

救われた、嬉しいと言われて、


「わたしも、武尾くんにそう言ってもらって、スゴく嬉しい」

こんぷれっくすからの解放と嬉しさとで、泣いてしまいます。

 

泣いてるふたりを観ている観客は笑っています。

 

 

ただ、このシーンは、ふたりが、お互いのコンプレックスを「そこが好きだ」と相手に言ってもらったことで、距離がグーンと近づいた瞬間でもあり、熱いものがこみあげてくるお客さんもいます。

 

ここは、感じ方によって、笑えるシーンにもなるし、泣けるシーンにもなるんです。

 

 

この勢いに乗って、夏休み、一緒に映画を観に行こうと誘う武尾くんと、

最高にうれしい声で「うん」って応えるゆいちゃん。

 

そして、中学2年生の男子にとって、ものすごい勇気だったでしょう、

武尾くんは、ゆいちゃんを抱きしめて「好きだ」

 

ちょっと前に言った「オッ、オレも(好きだ)」とは、好きの深さが全然違う。

 

でも、ゆいちゃんは「わかんない」と武尾くんを突き飛ばして、教室を出て行ってしまいました。

 

そのまま、夏休みへ。

 

夏休み、ゆいちゃんは外出もせずに、家でカンフー映画ばかり観てます。

わき毛を目で追うこともなく、ただ、観てます。

カンフー映画の向こう側に、武尾くんを感じてたんじゃないかな。

武尾くんのわき毛じゃなくて、武尾くんを。


(娘の悩んでる姿に、優しく、何気ない言葉をかけてくれるお母さんも、温かくて、好きです)

 

でも、行動に移すことなく、2学期に。

 

窓の外を観てる、ゆいちゃんの目線の先には、

女の子と親しげに、これまでみせたことない笑顔で話してる、武尾くんが

 

 

武尾くんのわき毛じゃなくて、武尾くんを目で追ってた、ゆいちゃん

 

 

廊下で武尾くんと出くわしました

 

 

お互い、あのことには触れず、平静を装って会話しました

 

あのとき、一緒に行く?と誘われた映画、

 

 

もう、終わっちゃったね

 

 

うん

 

 

あっ、でも、すぐDVDになるしね、きっと

 

 

 

うん

 

 

あー、ゴメン。観たんだ

 

 

 

あ、そうなんだ。面白かった?

 

 

あー、ビミョウ?

 

ビミョウ?そうか。

 

 

 

 

 

ひとりで?

 

 

(武尾くんのこと、「好き」じゃなければ、「ひとりで?」と聞くことは無いよね)

 

 

 

武尾くんは、右上に目が泳ぎながら

 

 

うん、ひとりで。

 

 

ひとり

 

 

ひとりでね。

 

 

 

そうか。

 

あっ、じゃ、行くね。

 

歩き出すと

 

 

 

あ、あのさ・・

 

 

 

いや、なんでもない

 

 

あっ、そうか

 

 

 

 

 

 

あっ!

わたし、わき毛生えたんだ。

それだけ。

 

 

いったん、「じゃあ」って話を切り上げて歩き出したのに、

なんで、このタイミングで、言ったんだろ?って考えてました。

 

 

ふくだ監督のティーチインのとき、「実は、ゆいちゃん、わき毛は生えてないんじゃないかと思うんです」とおっしゃってて、そうかぁ、と。それからは、ラストシーンを観るたびに、泣いてしまいます。

 

武尾くんは、「わき毛生えたんだ」と言われても、えっ?だから何?

って思うだろう。そんなことは百も承知なのに、思わず言っちゃった

 

(わたし、わき毛が生えて=もう、大人だから、「好き」って、どういうことは分かるし、

 だから、ほかの女の子と付き合っても、それは、自分が武尾くんのことを振ったからで、

 1回振られたくらいで、わたしのことあきらめて、別の子と付き合うんだ、なんて、

 責めたりしないから。だから、隠さなくて、いいよ)

 

夏休み中、自分のこんぷれっくすを「嬉しい」と言ってくれたこと、

そう言ってくれた武尾くんのことをずっと考えていた

 

 

でも、それを武尾くんに伝えられなかった

 

 

メイキング映像で、奏絵ちゃんが一番難しかったと言っていて、

ふくだ監督とマンツーマンで何度も練習していた、最後のセリフ

 

 

ガキ

 

 

見え透いた嘘ついてんじゃないわよ、武尾くん、ガキね

 

 

 

 

 

ではなくて(その意味もある、と監督はおっしゃっていました)

 

 

 

 

 

素直に自分の気持ちを伝えられず、

相手が理解出来ないこと分かってる言葉で、

背伸びしたウソを武尾くんについてる

 

 

わたし、ガキだ・・

 

 

失恋だけでなく、

むしろ、それ以上に、強がってる自分が情けなくて、流れた涙

 

 

24分のflashアニメの中に、中学2年生の女の子と男の子の

揺れ動く恋心と、成長と、挫折と

 

そこに、家族の愛情も描かれていて

 

 

笑って、泣けて、普遍性のある

 

 

まさに、パンポコピーナ(上田プロデューサーが立ち上げた、映像団体)

の理念にぴったりの映画だと思います。

 

 

今回のトリウッドでの上映で、観客動員500名突破だった、

「こんぷれっくす×コンプレックス」が、

もっとたくさんの人に、

 

コアな自主制作映画好きだけでなく、

ごく普通に映画が好きな人に、

 

実際に思春期真っ只中な中高生に

 

届きますように