賠償金を払わない「論破王」ひろゆき氏の法の抜け道を使ったトンデモな理屈 | 渾沌から湧きあがるもの

 

 

この人なんであんなに持ち上げられているのか私にはわかりません…チーン

 

とりあえず数字になればそれでいいという感じで使ってんですかね?

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

賠償金を払わない「論破王」ひろゆき氏の法の抜け道を使ったトンデモな理屈

 

 

 

「ペット大好き掲示板」事件で示された画期的な判断

 

今回、まず取り上げるのは「ペット大好き掲示板」事件の裁判である。この裁判では、「2ちゃんねる」と匿名掲示板を考えるうえで画期的な判断が示されている。

 

同裁判は、2ちゃんねるの被害について、はじめて最高裁まで争ったケースで、もちろん西村氏の不作為を認められ、西村氏は敗訴している。この裁判はプロバイダ責任制限法が施行される以前の2001年に提訴されたものなので、プロバイダ責任制限法は適用されていない。しかし、仮に同法が適用されるなら………いうことが、この裁判の争点ともなっている。

 

一審の東京地裁では、プロバイダ責任制限法はこの裁判には適用されないと断りながら、その法の趣旨は十分に尊重されるべきとした。しかし、仮にプロバイダ責任制限法があったとしても、西村氏側がこの被害の申し立てを知っており、それを削除することも一存でできたにも関わらず、なにもしなかったわけであり、責任は西村氏にあるとした。地裁のこの判断は、二審の高裁でもそのまま変わることなく、最高裁では控訴を棄却されている本稿末尾の注1参照)。

 

プロバイダ責任制限法が施行されてからの数多くの裁判を、本人が忘れてしまっているのか、それとも誰も覚えていないとタカをくくっているのかは知らない。どちらにしても呆れるばかりである。

 

さらに滑稽なのは、ネットにおける誹謗中傷の法的議論では、必ずといっても出てくるこの有名な判例を、当のご本人がまったく覚えていないということだ。これが「論破王」の正体である。

 

また、この判決では2ちゃんねるの削除ルールがきわめて不明確であって、「違法な発言を防止するための適切な措置を講じているものとも認められない」として、管理者である西村氏が「管理者としてその責任を負担するのは当然」ともしている。プロバイダ責任制限法施行直前のこの判決の時点で、すでに2ちゃんねるの問題点、そして問題が生じた場合に、プロバイダ責任制限法が施行されたとしても、西村氏の責任となってしまうことは明確に裁判所に判断されていたのである。(本稿末尾の注2参照)

 

 

欠陥があるのは法制度ではなく2ちゃんねる

 

西村氏は、やがて多発する裁判に音を上げて、リモートホスト情報を保持するようになったが、削除依頼のルールは変わらず、一般の人たちは二次被害をもたらしかねないリスクを負い、恣意的な削除ルールの壁に阻まれ、結局は弁護士などを介さなければ救済がなされないことになっていたのである。

 

そして、その被害者救済のための申し立ても、西村氏は逃げ続けた。削除は2ちゃんねるの独自ルールのもと恣意的に行われ、被害者救済に必要な情報の開示はサボタージュされた。西村氏が裁判に敗訴するのは当たり前なのである。

 

 (「救済されない旧『2ちゃんねる』の中傷被害者とひろゆき氏の賠償金不払  Qアノンと日本発の匿名掲示板カルチャー【7】」)で前述したKADOKAWA取締役は西村を擁護して、次のようにいう。

 

 「ひろゆきは最初から裁判を無視したわけではなく、日本の法制度のある種の欠陥により、物理的に裁判に対応できない状況に追い込まれてやむをえず裁判にも出ない代わりに、賠償金も支払わないという選択をとったに過ぎない。あまり褒められた選択ではなないにせよ、自分の利益のためでなく、防衛的な選択だ」

 

これがまったくとんちんかんな弁護になっているのは、もうおわかりかと思う。西村氏は、たんに誹謗中傷の被害のために、二次被害を巻き起こす削除要請のルールをあらため、裁判所の命令に応じて投稿者のIPアドレスは開示し、裁判のリスクを回避するために適切な削除措置をするだけでよかったのである。

 

一方的で独善的なルールを被害者におしつけて、被害申し立てを門前払いしてきたことが、身動きできないくらいに訴訟が多発した原因である。欠陥があるのは日本の法制度でもなんでもなく、2ちゃんねるのほうなのである。そして西村氏はこの欠陥を改めることがなかっただけなのだ。

 

なお、このKADOKAWA取締役のブログでは、当時は西村氏の弁護を引き受けてくれる弁護士がいなかったという旨のことが書かれているが、先の被害女性のケースなどでも西村氏は弁護士をたてるケースはあった。取締役が紹介するまで弁護士をつけられなかったというのは間違いである。それでも敗訴し、時に強制執行され、さらに損害賠償を命じられてきたのである。なお先の「ペット大好き掲示板」事件では、西村氏は5人の弁護士をみずからにつけている。

 

 

大学のサークル誌に載った仰天のレポート

 

さらに、あたかも「言論の自由」という主義・主張のために西村氏が賠償金を支払わなかったという解釈も、私には極めて疑問である。

 

私の手元に『朔風』と題された小冊子がある。発行元は「犯罪研究会」。中央大学のサークルである。この1996年度発行号に、H.Nという筆者が書いた『交通違反について』というレポートがある。このH.Nとは西村博之氏のことである。

 

どういうことが書いてあるかといえば、交通違反の罰金をいかにして踏み倒したのか、その体験談である。それを現場の違反状況の手書きの情況図をはさみながら、たんたんとレポートしている。

 

 「交通違反の取り締まりをうけて納得がいかず罰金を払った人に、このような選択肢があると提言するものである」と書かれている。ここで西村氏がいう「選択肢」とは、ようするに、どんなことがあっても、違反を認めなければ、小さな事件なので警察も音を上げて諦め、結局不問になるというものである。

 

警察に現行犯で捕まっても、出頭命令はくるが、それを無視してみたが何もなかった。法律のとおり行動したら、罰金も減点もなかった、ということである。身もふたもない話だが、もちろんこの「選択肢」は、その数年後に2ちゃんねる裁判で本人によって実践されたわけである。

 

当時、サークルに在籍した人に聞くと、西村氏は「犯罪科学研究会」のサークルでは経理を担当していたらしいが、あまりにも仕事が杜撰(ずさん)で、それを先輩に咎(とが)められると、それからは姿を現さなくなったとのこと。さもありなんの話である。

 

 

「交通違反のもみ消し方」から生まれた2ちゃんねる

 

西村氏が2ちゃんねるを開設するにあたり、そのプロトタイプになったのは、「交通違反のもみ消し方」というサイトである。これは、中央大学犯罪研究会のレポートを、そのまま掲載し、さらに罰金の逃げ切り方のノウハウ情報を交換しあう読者用の掲示板をつけたものだった。

 

当時のネットはアングラ情報がある場所というイメージがあったし、それを皆目当てにしてアクセスしていた。もう、おわかりだろう。この交通違反の罰金をもみ消すための情報交換掲示板が、2ちゃんねるのプロトタイプなのである。

 

ある日、この掲示板に西村氏本人が「もうちょっと違う掲示板をつくってみるつもり」というようなことを書いて、しばらくその掲示板からは西村氏の書き込みが途絶えた。そして、西村氏が米留学中の時間を利用して出来たのが、個人サイト「交通違反のもみ消し方」から独立してできた2ちゃんねるである。

 

もともと、交通違反をどのようにもみ消すかから始まったのが2ちゃんねるだったのである。そして、法律をかいくぐりながら、法的責任を逃げるという方法は、西村氏本人によって引き継がれたというわけだ。

 

「例えば、損害賠償400万円欲しいって人だったら、僕が400万円払わなければならないっていう判決とか命令が出るんです。
 で、それも放置したらどうなるかっていうのをやってみたら、別に何も起きないんですよね。結局、判決が400万円だとすると、僕から400万円を取る権利が確定するんですけど、権利が確定しただけで、その取り立ては国はやってくれないんですね。
 じゃあ僕が仮に400万円持っているとします。どうやってお金をとるか? 会社員だったら会社に対して給料差し押さえとかできるんですよ。じゃあ会社員じゃなかったらどうやってお金とるんですか?ってどんな弁護士に言っても、答えがないんですよね。こういうことがあって、あ、デメリットないじゃんと(笑)」

 

後年の西村氏の発言である。なんのことはない。相手から逃げ切れば責任は逃れられるという、中央大学の学生のアングラなレポートをそのまま実践し、スケールを大きくしただけである。

 

 

「責任を取らないと法律違反者のままです」

 

最後にもうひとりの被害者の声を紹介しよう。私が話を聞くことができた2ちゃんねる被害者で唯一名前を出すことを許してくれた有道出人氏である。

 

「(裁判で)正式に名誉毀損(きそん)があったと判決されました。よって、もちろん損害賠償で支払うことは法的な義務があります。西村氏はきちんと責任を取らないと法律違反者のままです。法制度も当局も、彼をなんとかしないといけない。我が国が本当に法治国家であるのかと心配します」

 

まったく同意見である。

 

有道出人氏はアメリカ出身の人権活動家である。2001年に、小樽市の浴場が外国人の入湯を禁止していることが人種差別にあたるとして、運営元と小樽市を提訴した。このことが、2ちゃんねるで話題になり、様々な嫌がらせや誹謗中傷が書き込まれた。アメリカ出身であるということを俎上(そじょう)にあげた差別書き込みも多数あった。

 

これに対して、有道氏はこの書き込みを削除するように2ちゃんねるに要請したが、西村氏はこれに応えることはなかった。そのため西村氏もあわせて提訴。西村氏は敗訴する。

 

だが、もちろん、いまだに損害賠償は履行されていない。そして、テレビやYoutubeで西村氏は、今日も「正論」やらを唱えている。そればかりか、地方自治体のプロジェクトメンバーに名前を連ね、今度は金融庁の広報の仕事も引き受けているらしい。頼むほうもどうかと思うが、素知らぬ顔で引き受けるほうにも口がふさがらない。

 

 

米公聴会が西村氏に求めた「証言」

 

前回とりあげた乙武氏の参院選立候補のキックオフイベントに戻ろう。

 

西村氏を応援弁士に呼んだ乙武氏は、このような事実を把握しているのだろうか。西村氏の「あの頃は法律がなかったからこうなった。私は悪くはない」といったおよそ事実とかけ離れた話を真に受けているのだろうか。私はぜひとも乙武氏に事実を聞いて欲しかった。

 

今でも2ちゃんねる被害者に対する弁済は行われておらず、皆、本当に怒っているし、その被害は未だに続いている……。そう伝えようとしたところで、乙武氏への話をさえぎるようにして割ってはいってきたのが、これまでのにこやかな笑顔とはうってかわった不機嫌そうな表情をしている西村氏本人だ。

 

「請求権は切れているはずなので、切れていない方で連絡を取れた方はいますか」

 

途中で乙武氏とのやりとりに割ってはいってきたため、私はこの発言がよく聞き取れなかったのだが、それに答えようとしているところで、司会者から話を打ち切られてしまい、その話は終わってしまった。どうやら、時効になればすべて許されると思っているようだ。もちろん様々な方法で所得を隠し、そのために法的に請求権がなくなってしまったのはその通りだろうし、そんなことはわかりきっている話だ。そのような人物が、許されていいのかという話である。

 

それから数週間後の7月10日、西村氏をどう判断するかを有権者に委ねると言った乙武氏は、参院選の東京選挙区で改選6席の当選ラインから24万3021票下回る大差で落選している。

 

乙武氏と西村氏のぶら下がりの取材は終わった後、私は諦めきれずに、主催者が呼んだタクシーに乗ろうとする西村氏を追いかけた。私にはまだ聞くことがあったのだ。それは西村氏が連邦議会に証言を求められている件だった。

 

あのQアノン信者が巻き起こしたアメリカ連邦議事堂襲撃事件について、真相を明らかにするために設置された公聴会が昨年、西村氏に対して4chanと連邦議事堂襲撃事件の関係について「証言」を求めていた。

 

これまでQアノンと連邦議事堂襲撃事件、そして西村氏の4chanの関係について、西村氏はいくつかの質問を公開の場でされてきたが、饒舌(じょうぜつ)ないつものトークとは打って変わり、ほぼ沈黙したままか、または話をそらし続けてきた。それはそうだろう。全米を揺るがすあの事件に、自分が経営する4chanが関わってきたなどということは、日本ではなるべく知られたくないはずだ。

 

タクシー前でその「証言」がどうなったのかを聞くと、西村氏は目をそらしたまま「連邦議会に聞けばいいじゃないですか」とつぶやくように言うと、車に乗り込み、目黒の並木道の向こうに消えていった。

 

 

FOXを探しに北海道へ……

 

ここまで見てきたとおり、西村博之という人は法の抜け道を利用して、自らの加害責任から逃げてきた。これについて私はもう少し、さらに西村氏と2ちゃんねるについて追ってみたい。

 

このような人物が、往来のど真ん中で大手をふって闊歩(かっぽ)しているのは、西村氏個人の問題というよりは、なにか時代の背景があるのではないかとも思うからだ。そうしたわたしたちが生きている時代の正体を、明らかにしたいのだ。

 

しかし、その前にもう少し書かねばならないことがある。

 

これまでこの連載「Qアノンと日本発の匿名掲示板カルチャー」では、西村氏の一世一代の敗北に終わったジム・ワトキンス氏との裁判、通称「2ちゃんねる乗っ取り裁判」について書いてきた。実はこの2人には、最高裁で決着がついたこの裁判とは別にもうひとつ争っている裁判がある。その裁判には、ジム氏と西村氏との関係について極めてよく知っている人物が登場する。

私は北海道に飛んだ。2ちゃんねると西村氏を考えるうえで、重要な証人になるであろうこの人物に会うためだ。

 

その男の名前は、FOXという。(「Qアノンと日本発の匿名掲示板カルチャー【9】」に続く

 

 

 

〈注1〉
被告は,本件にはプロバイダー責任法が適用され,同法の制定経緯,規制範囲等に照らすと,被告が本件各発言を削除しなかったことにつき削除義務違反はないと主張する。

プロバイダー責任法は,平成13年11月30日に公布され,本件口頭弁論終結後の平成14年5月27日に施行されたことは,当裁判所に顕著な事実であり,本件に直ちに適用されるものではないが,その趣旨は十分に尊重すべきであるところ,同法は,3条1項において,特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは,プロバイダー等は,権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって,当該プロバイダー等が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき,又は,当該プロバイダー等が,当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって,当該電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるときでなければ,当該プロバイダー等が当該権利を侵害した情報の発信者である場合を除き損害賠償責任を負担しない旨定めている。

しかしながら,被告は,前記のとおり,本件掲示板上の発言を削除することが技術的に可能である上,通知書,本件訴状,請求の趣旨訂正申立書等により,本件1ないし3のスレッドにおいて原告らの名誉を毀損する本件各名誉毀損発言が書き込まれたことを知っていたのであり,これにより原告らの名誉権が侵害されていることを認識し,又は,認識し得たのであるから,プロバイダー責任法3条1項に照らしても,これにより責任を免れる場合には当たらないというべきである。(東京地裁 平成13年(ワ)第15125号 損害賠償等請求事件)
 
 
注2〉
「(2ちゃんねるの)削除人が削除する際の基準とされている削除ガイドラインの内容が不明確であり,しかも,削除人は,それを業としないボランティアにすぎないことから,本件掲示板における発言によって名誉を毀損された者が,所定の方式に従って発言の削除を求めても,必ずしも削除人によって削除されるとは限らない。
(略)
被告(西村博之氏)が,利用者のIPアドレス等の接続情報を原則として保存していないから,当該発言者を特定して責任を追及することが事実上不可能であり,しかも,被告が定めた削除ガイドラインもあいまい,不明確であり,また,他に本件掲示板において違法な発言を防止するための適切な措置を講じているものとも認められないから,設置・運営・管理している被告の責任を追及するほかないのであって,このような被告を相手方とする訴訟において,発言の公共性,目的の公益性及び真実性が存在しないことを削除を求める者が立証しない限り削除を請求できないのでは,被害者が被害の回復を図る方途が著しく狭められ,公平を失する結果となる。

このことからすれば,本件において,本件各発言に関する真実性の抗弁,相当性の抗弁についての主張・立証責任は,管理者である被告に存するものと解すべきであり,本件各発言の公共性,公益目的,真実性等が明らかではないことを理由に,削除義務の負担を免れることはできないというべきである。
(同上)※カッコ内は筆者

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

救済されない旧「2ちゃんねる」の中傷被害者と

ひろゆき氏の賠償金不払い

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

関連記事

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇