朧な記憶で恐縮ですが、だいぶ前に読んだ宮本常一さんの民俗採集記の中に、ある村を通りがかるとその村にはカラスがいて、『この村には珍しいカラスがいる!』と驚いたとありました。

 

カラスに関する記述をもうひとつ、今燈下で読んでいる永井荷風『断腸亭日乗』の昭和11年4月19日(日)には、『晴れてむしあつき事夏の如し。(中略)雲気鬱勃(うつぼつ)たるさま盛夏のごとし。忽然晩鴉(こつぜんばんあ)三、四羽鳴つれて西方へ飛行くを見る。余鴉の声をききしはたしか昭和五年の夏牛込に遊びし時にして、平生これを聞くことなければ、珍らしきまま記して備忘となす。』とあります。

 

いずれも遥か昔の戦前の話で、外出するとカラスの鳴き声を聞かない日はまずない現代とは隔世の感がしますが、都下麻布に居を構えていた永井荷風が、6年もの間鳴き声すら聞かなかったカラスは、当時相当な珍鳥であったことがわかります。

 

もっとも米子の水鳥公園のボランティアさんのお話しでは、カラスの増えるのは人がゴミをたくさん出すせい、カワウが増えたのは鮎の放流を全国各地の河川で長年行っているからで、すべて人間が彼らの面前に豊富なエサを提供しているせいで殖えているだけ、彼らが悪いわけではないそうです。

 

逆に我々の目の前から消えつつある鳥さんが少なからずいるのも事実で、渓流の女王と呼ばれるヤマセミなどはその典型でしょうか。

 

awakinが広島市内北の方の高陽町内で営業していたころ、それは平成の世になって間がない頃のことですが、営業区域内を流れる川の河畔に車を停めて休憩していると、近くの枝に停まっていたヤマセミが飛び立ってホバリングし魚を捕まえる様子を見かけるのはそれほど珍しいことではありませんでした。

 

それから三十年余り経った今では、彼らの姿を見ようと思っても簡単には見れるものではありません。渓流沿いをクルマで走っていて、枝に停まっていたのが驚いて飛び立つところを偶然目撃するというようなことが年に数回ある程度でしょうか。

 

それがつい先日、クマタカが飛んで来ないかと山内で椅子に腰かけて待っていると、雄雌2羽が仲良くケケッと鳴きながら目の前を飛び過ぎた幸運に出くわし、レンズを向けるてみると何とか写真に収めることができました。

 

 

2羽で仲良く…。

 

おそらくペアで、これから巣穴を掘る場所を決め、繁殖行動に入ることでしょう。

 

子育て中は撮影など厳禁で、この場所の近くに来ることはありませんが、ハチクマの渡りが一段落する来月中旬以降には、雛が巣立ちしているかもしれず、そのころ再度訪ねてみようかと思うところです。