男はつらいよ・第34作『寅次郎真実一路』のラストシーンは、数あるエピソードの中でもとりわけユーモアに溢れていて印象深いシーンと言ってよいでしょうか。

 

それは寅さんと関敬六さん演じるぽんしゅうが、汽車を待つのに駅舎のベンチで寝ているところから始まるのですが、先に起きてホームに出て行ったぽんしゅうが笑い出してこう言うのです。

 

『だめだ寅、こりゃいくら待ったって汽車なんて来ねえよ。』

 

すると目覚めて出てきた寅さんは

『あ~あ~あ~あ~、あ~だめだ、だめだ。こりゃいくら待ってもだめだ。』

 

彼らが汽車を待っていたのは旧鹿児島交通枕崎線の伊作駅、映画の公開は昭和59年12月で、撮影がいつ行われたのかはわかりませんが、鉄路は同年の3月に廃線になっており、寅さんとぽんしゅうがホームで見たのはレールのない路盤と駅構内に山積みされたレールだったのでした。


旧可部線・安野駅(撮影日:2023.11.16)

 

もうすぐ廃線になってから20年経つ可部線の非電化区間にあった21の駅のうち、駅舎の中で寅さんとぽんしゅうがうたた寝するシーンが撮れそうな駅は、この安野駅しか残っていません。

 

廃止になった区間中駅舎があったのは9駅で、うち木造は安芸飯室駅だけであとはすべてコンクリート造の駅舎でした。木造の安芸飯室駅は長く放置されていたのが今は雑貨店として再利用されており、構内は大幅に改変され駅舎もリフォームされて昔の面影はありません。

 

コンクリート造の駅舎は放置されていれば今も昔のままの姿を保っていることでしょうが、何故かほとんどの駅舎が廃線後ほどなくして解体されてしまい、元のまま残っているのはここ安野駅だけになっているのです。

 

怪我をして暇を持て余しているawakinは、暇にまかせて寅さん第34作のラストシーンがこの安野駅で撮られる様を妄想して遊んでみることにしました。

 

安野駅が映画のロケ地となった鹿児島の伊作駅と決定的に違うのは、周囲が公園化されていて広島方面に向かって200mほどレールが敷かれたままになっていることと、静態でキハ58が1両留置されていることです。

 

その安野駅に商売を終えた寅さんとぽんしゅうが歩いてやって来ました。

 

駅舎で休むことなく寅さんとぽんしゅうは発車待ちしていると勘違いして車両に乗り込んでしまいます。

 


誰も乗っていない車内で、歩き疲れた二人は座席に座るとすぐに寝入ってしまいました。

 


先に目を覚ましたぽんしゅうが、列車が動き出さないことを怪訝に思い、ホームに出あたりを見回すと急に笑い出します。

 

『だめだ寅、こりゃいくら待ったってこの汽車出ねえよ。』

 

ぽんしゅうの笑い声に促されて外に出てきた寅さんも笑いながら…。

 

『あ~あ~あ~あ~、あ~だめだ、だめだ。こりゃいくら待ってもだめだ。』

 


動かない電車に乗っていたことを知った二人は、笑いながら広島を目指して安野駅を立ち去るのでした。