先日、美保基地を起点にぐるっと半周、島根半島を旅してきました。



それは岬と入江を巡る旅、昔フォークギターを片手によく歌った「岬巡り」を思わず口ずさんでしまうような景色が続き、岬の先っぽからは遠く隠岐が見えました。



昭和の初めにこの地を歩いた宮本常一さんの旅路と重なる道々で、学者が眺めたかもしれない景色を十二分に愉しんでまいりました。



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旅の起点は、境港市にある空自・美保基地。



ブルーインパルスの予行を待つ人々の前に姿を見せているのは空自のC-2(68-1204)、きのう舵もブレーキも利かなくなって!叢に突っ込んだ機とは同型ですが、この機は事故機ではありません。

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美保基地の外周をJR境線が走っているので、ブルーを待っている間にも列車が通りがかるので、一粒で二度美味しいというか、退屈しません。



このときはちょうど予行が始まった直後で、5号機と6号機が地上でスモークを吐いている最中…。



とても忙しい瞬間でありました。



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真に岬巡りの風景、多古の展望台から美保関方向。



右手の山の上には空自のレーダーサイトが見えておりますが、あそこへは特別な日(記念日)以外は登ることができないそうです。

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宮本常一さんが島根半島を歩いたときに最初に泊まった大芦の集落からほど近いところ、海岸が洗濯板のようになっている須々海海岸では、その先の岩礁に釣り人がひとり…。



あんなところにいて、見ているこちらが怖くなる風景でありました。



『加賀から次の大芦村まで半里ほどある。家は道の左側にある。(中略)「旅の人じゃ、困っているにとめてあげてつかァさい。」とその人が口添えしてくれたが、どうしてもとめようと言わない。(中略)顔を見て安心したらしい。お上りなさいと言うことになった。連れて来てくれた人は安心して出て行った。』(宮本常一著作集25巻 「土と共に」・『挨拶』)

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次の御津の集落を目指して須々海海岸のある岬を過ぎると、目の前には大きな構造物が姿を現しました。



中国電力島根原子力発電所、右手の海岸に近いところにあるのは建設中の三号機、岬ひとつを崩し、入江ひとつを埋めて造った巨大構造物。

大芦の宿では出された麦飯を四杯食べ、足がはみ出る小さな布団で潮騒の音を聞きながら夜を過ごした民俗学者は、今は島根原発の地名にもある片句という集落を目指して翌朝良い天気の中出発します。



『私は弁当を作ってもらって出かけた。大芦から次の御津村までは一里ある。よい天気で足は軽い。しかしここまで来ると行き逢う人も挨拶をしなくなる。こちらからすると面喰ったような顔をする。ここでは見知らぬ人にはだまっているのがあたりまえなのだろう。それほどまた町の空気もしみ込んでいるのである。ここから松江へも近い。』(宮本常一著作集25巻 「土と共に」・『挨拶』)

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『私はその日、江雲村の片句というところまで行きたかった。御津の市場の人たちは、そこをたずねてみよと教えてくれた。昔から物固い漁浦で人も親切だという。
御津から片句までは尾根づたいの細道である。尾根の上へあがると松林で、左手には宍道湖が煙るように光っている。右は日本海で今日も隠岐がはるかに青い海の上に見える。尾根づたいの途中で弁当をたべた。』(宮本常一著作集25巻 「土と共に」・『親切な人々』)



上の写真は国土地理院のHPからお借りした1979年(昭和51年)9月に撮影された航空写真です。



戦前宮本さんが歩かれた尾根筋の細道は、37年の年月を経て少しも姿を変えていないように見えますが、隠岐を遥かに見晴るかす海側の景観はこの写真が撮られた約二年前に運転を開始した島根原発一号機によって、このときにもすでにだいぶ変わっていたのではないでしょうか。

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さらに40年余の年月が経過し、その細道は島根・県道37号線と名を変え、舗装されてダンプ一台が通れるくらいに拡幅されています。



ひっきりなしに島根ナンバーのダンプが行き交うこの道、剣呑な顔つきで立ちふさがるので何度もバックする羽目になりましたが、その理由はこの工事とこの看板でしょうか。(廃炉になった一号機が建っているところからひとつ東の岬を崩して造成)

驚いたことに、ここから隠岐が見えたのです。



でもさらに驚いたのは、敷設されている最中の巨大な土管!!

排水路のように見えますが、こんな大きな管の中を何が通るのか??



 
建設中の三号機の原子炉を冷ます海水が、海底トンネルを通じて供給されることを最近知ったのですが、ここで今行われていることが何のために行われているのか知りたいと思うことは、悪いことでしょうか。



 



『 そりゃわしらも火を使うがな。
  多すぎる火は森を一日で灰にする。
  水と風は百年かけて森を育てるんじゃ。
  わしらは水と風のほうがええ。 』  ( 風の谷のナウシカ )