hitori
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29歳になる秋の初め、、夜道をトボトボと歩いている。
まだ20歳くらいの何も分からなかった頃、今の私くらいの歳の男友達からよく電話を貰ったことを思い出す。彼氏でもない子達の電話の理由を、最近わかりだした気がする。
地元の駅から家までの夜道は、自分がたった一人だという事を思い出さされる。終電まじかで帰りついた駅は、楽しそうに通り過ぎていくグループやカップルばかりが目に入る。
帰りたくない‥‥ギュッと体が縮む感覚。考えすぎれば吐き気が追ってくるだろう。歯車が狂いきった夫婦は別れる心さえ、消耗しきっている。
顔を合わさないために友達と飲み、パーティーへ出かけ楽しいフリをして人の群れに紛れこむ。笑顔を絶やさず、誰からも好かれる私を保つのは‥今の私には、耐え難い苦痛だ。そして一人きりになることもどうしようもない闇が広がっている。
「こんなはずじゃなかった」「適齢期の大恋愛の結婚」「経済的にも誰もがうらやむ」「背が高くカッコイイ旦那様」「憧れの街に住み」「しょっちゅう海外旅行に行く」「いつもおしゃれで」「二人揃って華やかな職業」夜道を歩きながら、グルグルと頭の中をまわっていく。帰れば、いつもどおり、酒を飲み眠る。眠くなるまで外で飲みたい誘惑に駆られるが、今日はそんな気分でもない。いつのまにか家でも店でも一人酒を当たり前にしてしまうことができる女になっている。
翌日、暑い日だった。ロケ先でモデルのヘアーメイクを済ませ、夕方には仕事が終わり、古い友人からの連絡で二年ぶりに食事をする約束をしていたので、繁華街のチェーンのコーヒーショップで時間を潰すことにした。随分長い間、買い物をする気力さえない。
タバコを吸いながら、仕事の連絡を行う。ミスがひとつあればフリーのメイクの信用なんてすぐに消える。イライラしながら携帯使用していると‥「すみません」と声をかけられた。一人がけの椅子が窓に並んでる状態の、三席隣の中年の男性に声をかけられたらしい。ふっみたら、一見まともそうな品のある男性だ。ジロジロと凝視していると
「タバコを一本いただけませんかねぇ」
と自信なげな笑顔を振りまいている。びっくりして無意識にタバコを一本渡す。よくみると薄汚れていて、床にはパンパンに膨らんだリュックが置いてある。
「火をかしていただけませんかねぇ」
ヘラヘラと笑いながら男は媚びを売った。一言も発さず、この汚い男にライターに触れられるのを恐れ、火をつけてやった。
そして男に向けて背を向け、何もなかったように携帯メールを打っているフリをした。周りにいた気づいた他の客たちも、驚いて一部始終見ていたが、何事もなかったように別々の空気に帰っていった。
男の異様さが、私を、周りにいた客を一瞬結びつけた‥
男は、まだ、ブルーシート暮らしするには少しお金が残っているのだろう。24時間営業のコーヒーショップなどで夜を明かすのかもしれない。いずれ公園などに移動していくのだろう。
それにしても、タバコ一本頼めばくれる女に見えたのか‥突然、生きている私について大きく動揺した自分がいた。一生懸命しても、ダメな時はダメなんだ‥当たり前の事を思い出して涙がにじんだ。