還って来たけど帰れない!

 

下校時間の過ぎた春の放課後。誰もいない校舎の階段を、勢いよく屋上に向かい駆け上る三人の少女の走る足音だけが、静まりかえった廊下に響き渡っていた。三階、四階を過ぎ五階目を差し掛かる辺りでは、ぐるぐると廻り込むように作られた階段を全速力で尽きったのだから息も上がっても当然だった。小刻みに続く息を荒立てながらようやく目の前に屋上に向かう最後の階段が現れた。そこは最後にして雑多な荷物が階段の段ごとに並び置かれ狭く塞がった空間だった。頂上には屋上に出る鉄の扉が待ち受けている。三人は自然と一列になり神妙な趣で一歩一歩踏みしめ上がって行った。扉を目の前にして先頭にいた一人が重そうに体ごとつかい押し開けた。そこには目前と広がる間近に迫った真っ赤な空が一面を覆い尽くしていた。

「ニビル・・・」

先頭にいた扉を開けた少女が赤い空を見上げながら小さく呟いた。

「これって夕焼け空じゃないわよね・・」

二人目の少女が恐る恐る呟いた。

「だったら何の問題も無いわよ・・」

最後の少女が怯えながら呟いた。

三人の少女はその圧倒される光景を前に唖然と立ち尽くしていた。


 

数日前・・・。

桜舞い散る四月初旬。夢と希望を胸にした新入生を迎えた入学式が滞りなく終わり二人の少女は足早に一つの室(へや)に向かっていた。そしてその室(へや)に着くなりいなや、一人の少女が教壇に頰杖を付いて言った。

「願いが叶ったわぁ~。今日から“会”じゃなく“部”よ!」

ようやく安心しきったのか安堵感に包まれた表情で、ニヤニヤ笑いが止まらない。

「うるさい奴もいないし、また自由に活動できるのね!」

もう一人の少女も教壇の少女に顔を近づけこれからの期待に実感が湧いてきた。

「そして私も正式な部長よ!」

教壇に立つ少女はその言葉の響きに酔いしれている。

「よかったわねぇ~、この学校に転校してきて。寝ずに探した甲斐があったわ」

もう一人の少女もはしゃいでいる。

「そう私、鷹塚翠 (たかづかみどり)はオカルト研究“部”の部長になりまぁ~す」

教壇にいた少女は声高らかに右手を上げて言った。

「私、早乙女沙織(さおとめたさをり)もオカルト研究“部”の副部長になりまぁ~す」

もう一人の少女も同じく並べられた生徒たちが座る机に向かい右手を上げて言った。二人は同時に豊満な笑顔に包まれ手を取り合って社交ダンス気取りで踊りだした。

「だけど何だか物足りない感じがしない?」

沙織がスッテプを踏みながら言った。

「隙間風が吹いてるというか、あと二人ぐらいいるべき者がいないとか・・」

沙織は変な違和感に襲われている。

「私は何とも感じないわ。だってわたし達いつもあなたと二人だったじゃない」

翠はバレエの様に飛び跳ねながら拍子抜けした顔でケロッとしている。

「そうかなぁ、なんだかぎこちないんだけどなぁ~。まぁいいっか」

沙織は今度はタンゴを踊りながらまだ納得しきっていない。

「あなた達、室(へや)を間違えているんじゃない。ここは美術部よ」

そこへ突然、違う少女の声が飛び込んできた。二人が声がした方向へと顔を向けると、しゃがみ込み机の角から目だけ出して覗き込む影があった。

「あなた達が悪いのよ。いきなり入って来て自分達の世界に没頭して騒ぎ出すんだもの」

その少女は恐る恐る立ち上がった。すると見る見るうちにその姿は優に二メートルも超えるかの身長になった。

「八尺様ぁ~!」

二人はお互いしがみつき、気が遠退いていった。・・・つづく