ブログネタ:眠れないとき、何する? 参加中本文はここから

黒い夜だというのに、黒い衣が翻ったのがはっきりとわかった。
本当ならば、この夜分に何をと問いつめるべきだったのだろう。
闇の中でこちらを認めた漆黒の瞳は、口は見えていなかったというのに、
はっきりと妖艶にこちらに笑いかけたのがわかった。
何故だ、などという言葉をかけるのは無粋な気がして、黙って目を合わせる。
「見逃せ」
今度は、声の調子から笑いかけてきているのを知った。
「今宵は月が無いので、ふと現れてみた」
そうか、とだけ、心に浮かんだ。
女、なのだろう。言葉は男のものではあるが、声は闇を震わす微かな音だった。
けれども、黒の中ではその繊細さこそが際立つ。
風がおこった際に消えた行灯が気になったが、
もう少し闇を楽しみたい気持ちになっていた。
ひらりと、また黒い衣が翻り、影になっている女の顔が映る。
月も無いので顔つきも表情も判らないが、笑っているに変わりはないのだろう。
女は長い髪をしていて、時折態と透かすようにこちらを覗った。
「月は,明日は出てくる」
「知っている。今宵だけだ。月の無い夜しか溶け込めぬ」
何もかもが闇に包まれていた。
それでも黒の色の違いが、はっきりとそこに誰かがいることを示していて、
つくづく黒は不思議な色だと思う。
同じ色でも、白はここまで人を隠すことも無く、また、ここまで存在を
仄めかすことも無い。
ふと、足元を見た。自分の影は黒すぎるのか闇の中に見当たらなかった。
「おい、何している」
仲間の声が聞こえた。
「行灯が消えた」
「さっさと点けろ。新月は、影にのまれるぞ」
火をうちかけて女を見る。
「黒に紛れて戻る故」
ご心配なさらず、とその影は呟き、再び横を通り抜けていく。
火花のあかりがうっすらと当たった時の顔が、女だというのに自分に似ている気がした。
足元を見ると、影がもどってきていた。
_黒の詩:詠み人知らず
音楽 : STELLA BY STARLIGHT