片岡義男を読む | 人生をアートで埋める

片岡義男を読む

ハヤカワ文庫より、「片岡義男コレクション」と銘打って、片岡義男の膨大な短編の中から評論家がセレクトした、いわばベストアルバム的な短編集が2冊刊行された。6月にはもう1冊でるらしい。
ぼくは3、4年前から片岡義男にはまり、新刊も含めて彼の著作を買い集めた時期があった。彼は1980年代から90年代にかけて、驚くほど本を出している。角川文庫だけで100冊近いのではないか。そうした本をブックオフで100円で買いそろえるのが、ぼくの一つの趣味なのだった。正確には数えていないが、ぼくも100冊ぐらいの本をすでに所有している。所有しているだけであって、全部読んでいるわけではない。買うことに意味があり内容はその次だという、その哲学そのものをぼくは片岡義男から学んだのだ。
『花模様が怖い』『さしむかいラブソング』というタイトルが付された今回の2冊に収録してある短編もほとんどすでにぼくが持っている本に入っているものだったが、読んでいないものばかりだった。だからこれを機会に読んでみた。それらは、予想を遥かに超える面白さだった。地下鉄で通勤途中に読んでいて、夢中になったあまり降りる駅を通り過ぎてしまったくらいだ。
『花模様が怖い』はハードボイルド系の作品が多く収められている。汗臭さや血生臭さは皆無で、とにかくクールな世界が描かれる。当然人が殺される場面が多く出てくるのだが、とても残酷で陰惨な世界が、全く無機質に、情景のアウトラインのみを淡々と表現している。緻密に言葉だけを積み上げた独特の世界だ。『さしむかいラブソング』は恋愛小説を中心とした短編集だが、これも同様。感傷や叙情はほとんど排除され、どこまでも明晰な男女が日常の中で微妙に変化していく、その過程を切り取ったような物語。そして、不思議な読後感が残るのだ。
片岡義男は、孤高の作家だと思う。彼のような作風の作家は世界的にも稀なのではないか。そして一度それに魅了されると、彼の作品世界に浸ることが、いや彼の文章を目で追いかけること自体が快感になってくる。またブックオフを回って彼の文庫本を買い集めようか、とぼくは思っている。
true-片岡義男