33歳 | 人生をアートで埋める

33歳

先日、インターネットのオークションで落札したヘンリー・ミラーの『わが愛わが彷徨』という本が届いた。1979年に創林社というところから出版された本で、訳者は村上香住子という人だ。入札する際にはどんな内容の本なのかまったくわからなかったが、届いてはじめてこれがヘンリー・ミラーへのインタビュー集だった、ということがわかった。エッセイ集だと思っていたのだが、これはこれでうれしい。早速読み始めてみる。序文を吉行淳之介が書いている。吉行淳之介はヘンリー・ミラーの『愛と笑いの夜』という短編集を翻訳していたり、ミラーとの関わりが深い作家である。ぼくも一時期吉行淳之介の本を読みあさったことがあったが、結果的にあまり夢中にはなれない作家だった。文体がぼくにはどうしても合わなかったからだ。それはともかく、インタビュアーはフランス人のクリスチャン・ド・バルティラという人で、ミラーの少年時代から80歳を超えた現在(当時)までの生涯を追ったインタビューとなっている。相変わらずミラーの回答は面白く、ぼくも軽く読んでいたのだが、ある部分に行き当たり思わずドキッとした。以下のような会話である。

ミラー「『いま書かなければ、もう絶対できない、手おくれになる』と考えていたので、三十三歳で書きだしたときには、不安があった」
ー三十三歳というのは、男にとって、第二の思春期かもしれませんね。
ミラー「または決断の時だ」
ー病に蝕まれるか、落伍者になるか。
ミラー「それとも自己を見いだすか」
ー自己を見いだし、磔刑に処させる。
ミラー「そう、うまいよ」

最後の部分はイエス・キリストが33歳で磔になって死んだ、という話を踏まえてのものだ。キリストはともかく、ヘンリー・ミラーにとって33歳という年齢がとても重要な年だった、という事実がぼくを感動させた。ミラーが小説で繰り返し描くことになる運命の女性ジューンと結婚し、それまで勤めていた会社をやめ、創作に専念したのが33歳のときだったのだ。ぼくもミラーと同じく33歳で結婚した。それがどのような運命をぼくにもたらすのかはわからないが、妻である彼女がぼくの人生でもっとも重要な意味をもつ女性であることは疑いようがない。そして、創作。第二の思春期。決断の時。なるほど、とぼくは思った。ヘンリー・ミラーがぼくにまた勇気をくれたような気がする。ぼくだって、まだまだこれからだ。今ぼくは思春期の中にいるのだ。