夢見るポップス | 人生をアートで埋める

夢見るポップス

松尾清憲率いるバンド、シネマの26年ぶりのニューアルバム『シネマ・リターンズ』がリリースされた。もちろん、期待を裏切らない名盤だ。
シネマは、ムーンライダーズの鈴木慶一プロデュースのもと、1981年にデビューした。アルバム『モーション・ピクチャー』といくつかのシングルを出してすぐに解散、松尾清憲や鈴木さえ子、一色進など、メンバーはそれぞれの活動を続けていた。
特に松尾清憲はソロアーティストとして数々の名盤を生み、さらに杉真理とのBOXやピデリーサーカスといったバンドでも活躍している。今年7月には『松尾清憲の肖像ーロマンの三原色』というソロアルバムをリリースし、その変わらぬ高度な音楽性の充実ぶりに長年のファンであるぼくは大いに喜んだ。
昨年、シネマがライブで再結成を果たし、『モーション・ピクチャー』が、当時の未発表曲を大量に追加した2枚組のアルバムとして再発されたのだが、まさかニューアルバムまで発表されるとは。生きていてよかった、と思う瞬間である。
『シネマ・リターンズ』には、ファンタスティックでロマンティックなポップスが満載で、全14曲、隅から隅まで楽しめる内容だ。以前は大半の曲を松尾清憲が作っていたが、今回は他のメンバーの楽曲も加わり、よりスケールの大きなアルバムとなっている。いくつものメロディーやコーラス、イディオムが一曲に徹底的につめこまれ、情報量が半端ではない。松尾清憲のソロの曲にも言えることだが、曲の展開が起伏に富み、とにかく完成度がハイパーだ。音楽への憧憬と敬意、架空の世界を旅するような夢とロマン。近年、こんなポップスがいったいどこにあるだろう。
杉真理もそうだが、とにかく彼らはポップスの楽しさ、希望を全身で信じている。デビュー時から一貫してそれだけは揺れない。そこが素晴らしい。身の回りの陳腐な日常における恋愛を歌う凡百のポップスなんて、ぼくにはどうでもいい。宇宙や未来にまで思いを馳せる彼らの音楽こそが、本当のラブソングなのだ。
アルバム中、ベストトラックは「Theatre Returns(午前5時、あの場所に)」という曲。シネマというバンド名よろしく、様々な映画へのオマージュを掲げながら、最後に「でも今 君が好き」というフレーズに涙が出そうになる。松尾清憲がまた最高傑作を作ってしまった。