『嗤う分身』映画鑑賞。主人公は電車通勤。同じ車両には誰も乗っていない。不意に見知らぬ男に声を掛けられる。「ここは俺の席だ」。周りを見渡す主人公。同じ車両にはやはり主人公とその男しかいない。不審に思いながらも席を譲る主人公。男の顔は見えない。降りるべき駅に着くが、電車に乗ろうとする客が次々と荷物を車内に入れるため、主人公はなかなか降りることができない。ようやく降りたがカバンをドアに挟まれ、そのまま電車は走り出してしまう。職場に着くと警備員にIDカードの提出を求められるが、カバンが電車のドアに挟まれ正式なIDカードが無いことを理由に入館を一時は拒まれる。なんとか代わりのIDカードを発行してもらったもののスペルが違う。自分を知らない警備員ではないのだが。職場に行くと雰囲気がどこかいつもと違う。そんな主人公の楽しみは自分のアパートから隣のアパートに住む美しい女性が生活する姿を望遠鏡で覗くこと。そんなある日、望遠鏡でいつものように女性を覗いていると、隣のアパートから望遠鏡で自分を見ている男の姿があるのに気づく。男は手を振っている。明らかに主人公のしていることを知っており、あまつさえそれを知っていることを伝えている。その直後、男はビルから自らの意志で飛び降り、即死する。男の自殺をきっかけに隣のアパートの女性と親しくなる。そしてその後、主人公とそっくりの人物が現れるのだが。安部公房の「壁―S・カルマ氏の犯罪」、ポール・オースターの「幽霊たち」、カフカの3つの長編と「変身」を彷彿とさせる、観る者の居心地を悪くする奇妙な独特のディストピア的世界観。前衛的ながらもどこかユーモラスな作風を存分に味わって欲しい。個人的には年間ベスト級の評価を与えたい。お薦め。