李琴峰『五つ数えれば三日月が』


中編+短編。


『彼岸花が咲く島』のファンタジーな印象が強いけど、こちらは極めて自然主義に近い現代を舞台にした小説。


日本で働く台湾人の主人公(女性)と台湾で結婚して暮らす大学時代の友人(女性)の出会いから再会を描く。


それぞれが抱えるも微妙に位相がズレた外国語で暮らす中での疎外感、同性愛を心に秘めながら生きる主人公と伝統的な価値観としての家族主義の中で生きる友人の対照的な悩み。


絶対にして不動の参照点となる、一生色褪せない黄金の大学時代。


両者の絶望的なまでの距離が3.11という個別のイベントによって我々の人生と地続きに位置付けられた時、同世代の読者として現実を捉え直すことを否応なく迫られる。


「自分の中国語は自分のものではなく、どうしても中国か台湾のものになるのだろうか。実桜は、色んなものが自分のものでなくなったように感じた。居住の権利は役所に出向いて書類を出さなければ与えてもらえない」