伊藤計劃『虐殺器官』


アメリカの特殊暗殺部隊隊員である主人公が、世界各地に内戦・虐殺を引き起こす黒幕と目される男を、時に直接対峙しながら追跡し、その虐殺の真相に迫る。


敢えて逆順で語る愚を犯せば極めてPSYCHO-PASS的な話の流れで、そりゃノイタミナで映画にするよなと。


SFとして正しく煽動的なジャーゴンの反復と(と言っても量としては比較的控えめで、単純に筋の面白さで押してくるところが最も好ましいのだが)、群像劇にしないでSFらしく主人公の心情にどっしり根付いた描写(ここはPSYCHO-PASSと違うかも、そしてこっちのが好み)。


虐殺がどのように「器官」であるのかは、つまり「器官」という言葉の広がりについての感覚は、大学の頃にお遊びでアルトー、というかドゥルーズに多少触れた記憶が残っていてよかったなと。

器官は、ただ器官としてあればよく、それをくどくどと解剖しないところに、(私が非SF読者であるゆえの)作品の面白さがある(または、その妨げがない)。


手垢のついた具体名(何せ同時代を舞台にアメリカの情報機関の隊員を主人公とするのだから)を組み込む形式も、用語に置いていかれるというSFあるあるの回避策かと思わせるくらい。

最後まで読むとそうじゃないと分かるけど。


とか言いつつ、最後のやることやって世界を眺めながら閉じこもる系ENDみたいな SFらしさもあって、とにかく行きつ戻りつSFの濃度の調整がすごく好みだった。