山本文緒『紙婚式』


結婚をテーマにした短編集。と言っても、「幸せ」に結婚生活を全うする作品は一つもなきところが作者らしい。

浮気してるわけじゃないしイベントやグッズに入れ込むわけでもないのにSEXの時に好きなアイドルを思い浮かべている妻と、自らの浮気を棚にあげモヤつく夫(『貞淑』)。
理想の妻を演じるという優しさとマウントの混線が、妻の笑顔の与える緊張感を通じて表現される『土下座』。


破綻の様子は全作品を通じて、どちらかと言えば古式ゆかしい印象だ。




その中で「理想の夫婦」をやり続けるために求められる不断の努力に疲弊する『おしどり』と、自然体で行こうとする事実婚カップルの最後を描く表題の『紙婚式』とを両方書いていることにも明らかなように、結婚という行為が正当化されうる正当化根拠を、少なくとも作者は一般性を持っては見出せないようだ。




結局、結婚のことを、関係性を固定するという試みを、筆者は毫毛信頼していないのだろう。

もはや誠実とさえ言える移り気こそが、恋愛気質こそが、結婚をして異星人の謎の行動様式のように描かせている。
結婚とは全て満たされて幸せに語られるべきものだという信念さえなければ、宇宙人か昆虫の観察日記のように楽しめること請け合いだ。