それでは最終話でございますベル

4月のある金曜日、ソヌとハジンWハート仕事終わりに

イチョンにある研究所に向かうところでしたねウインクラブラブ

長めですけれどじっくりお読みくださいませ走る人

 

 

 

 ハジンにとって久しぶりの研究所である。

車を降りて研究所の玄関に向かおうとする、ハジンの手をつかんで、ソヌは言った。

 

「今日は研究所じゃなくて、隣にお邪魔することにしよう。」

「隣ってバラ園のこと?もうとっくに閉じている時間でしょう?」

 

ハジンの心配をよそに、ソヌは澄ました微笑を見せ、顔の横で鍵の束を揺らした。そして、彼女の手を引っ張ってバラ園の門まで連れて行き、その頑丈な門の錠前に、鍵の一つをガチャリと差し込んだ。

 

「これかな?お、開いた、開いた。

幸先いいぞ。」

「まさか、ソヌさん、バラ園の鍵、盗んだわけじゃないでしょうね?」

ハジンはソヌに、ちょっぴりにらんで見せた。

 

「ハハハ。まさか。親父を通して、館長さんにスペアを借りておいたんだ。ここのバラ園、夜にイベントで貸し切ると高いんだぞ。理事特権でタダで入れるんだから、ハジン、よかっただろう。」

 

ハジンは、今まで二度ほどこのバラ園に来たことがあったが、夜訪れるのは初めてだった。

 

 

正面の門から見ると、バラ園の主要部分は左右対称の造りになっている。その中央のメインストリートの奥まったところに、白いドーム状の、しゃれたガゼボ(東屋)がある。写真撮影やガーデンウェディングに使われる場所だ。

 

ハジンたちが門を入ると、閉園後なのに、なぜか、そのガゼボまでの道が、既にところどころライトアップされている。

 

バラ園全体は、まるでひとかたまりの、うっそうとした森のようだ。その真ん中に、バラ模様の緑の壁に挟まれたような小道が、ずっと続いていて、その先に、薄暗いガゼボが待ち構えている格好だ。どこか異なる世界へ通じる小道のようにも感じられる。

 

どういうこと?という表情で、ハジンがソヌの方を見ると

 

「ハジン、いい子だから、一人で先にガゼボまで行っていてくれる?俺もすぐ後で行くから。足元に気をつけて、転ぶなよ。」

 

ソヌはいたずらっぽい表情で、まるでソヒョンにでも言うように、そうハジンに指示すると、入園受け付けの小屋の方に行ってしまった。

 

 

 もう、とっぷりと暗くなっていたが、照明のおかげで、ハジンは危なげなくガゼボまで歩いていくことが出来た。ところどころに小ぶりのバラが咲いているが、満開の時期はもう少し先である。

 

 寒さに強い品種は、当然、早くから咲くのよね。ハジンは、以前ソヌから教えられたことを思い出した。

 

目的地にたどり着き、目を閉じて深呼吸をすると、あたりは控えめだが清涼なバラの香りで満ちていた。

 

すると、今度は、薄暗いガゼボそのものがライトアップされた。その周囲を取り巻くバラたちも一緒に浮かび上がった。

 

抜け道からやって来たのか、ソヌが、いつのまにかそばに来ていてハジンに手を差し伸べた。 ハジンがソヌに導かれていったのは、ガゼボのすぐ横に植わった、早咲きのデインティ・ベスの一群だった。

 

 

 

初めてソヌに出会った日、この優雅で控えめな花にも出会い、その名のいわれを聞いた。ハジンは、その後も仕事の合間に、一見バラらしくない、このお気に入りの花の様子をよく見に行ったものだ。清楚な姿に似合わない、個性的で魅惑的な香りも気に入っていた。

 

 

二人にとって、出会った日の記念である花の前で、ソヌは言った。

 

「デインティ・ベスの話には続きがあって、アーチャーは、この花を作出した年に、恋人のベスに花を捧げて、花の前でプロポーズしたんだ。プロポーズの言葉は恋人たちのほか、この花だけが知っているという話。」

 

「もう九十年も前のことだから、少しまねをしても、ミスター・アーチャーは許してくれるだろう。」

 

そして、彼は、少し照れたような表情でハジンに向き合い、その両手を取って言った。

 

「コ・ハジンさん、どうか、僕と一生を共にしてください。これからもずっと、僕に希望を与えてください。デインティ・ベスを証人にして答えを聞かせてくれる?」

 

 

 

ハムケ サルジャ(クァンジョン) 

 

 

一生を共に?

これはプロポーズの言葉よね?…イエスだわ

 

希望って、私が彼の希望なの?

出来るかどうか分からないけど、

そうなれるように頑張るわ

だから、イエス。

 

ただ、イエス、とだけ答えればいいの?

いつものソヌの言葉遣いとあまりにも違うのでハジンは、やっとのことでこう言った。

 

「あのう、ソヌさん、答えはイエスですけれどいつもの言い方でも言ってみてくれません?」

「え?」

「簡潔に、分かりやすく。いつも貴方は言うでしょ、結論から言うがって。ね、早く。」

「ハジン、俺と結婚してくれ。でいいの?」

「はい、分かりました。貴方と結婚します」

 

ハジンは、にっこり微笑んで即答すると、ソヌの腕の中に飛び込んだ。

 

「えー、妙な間合いでドキドキしたじゃないか、ハジン。それに、言い直させるなんて、全く手のかかるお嬢さんだ。」

 

緊張から解き放たれたソヌは、ハジンに不満を並べ立てた。その後、彼は真顔になって続けた。

 

「それから、約束してくれ、ハジン。いつも元気でいること、絶対に俺をおいて行かないこと。」

 

ハジンは、真剣な表情になったソヌの顔を、両手で柔らかく包み込んだ。そして、吸い込まれそうな、彼の涼やかな目を見つめて言った。

 

私は、貴方から離れません。

絶対に貴方を一人にしません。

あなたとソヒョンが幸せになれるように、私が出来ること全部したい。お約束します。」

 

ハジンは、何の迷いもなく、一続きの誓いの言葉を言った。

 

チョン トナジ アンナヨ(ス)

 

ソヌは、ジャケットのポケットから小さなケースを取り出した。そして、きらめく指輪をハジンの指にはめ、彼女の額と頬に、約束の刻印を押すように、ゆっくりと、優しく口付けをした。

 

ハジンは、温かな満ち足りた思いでいっぱいになり、何故か悲しいほどの感情を覚え、涙が溢れた。

 

ソヌと出会ってまだ二年にもならないのに、ずっと長い道のりを一緒に辿って来たような気持ちになるのは何故だろう?

 

いろんなことがたくさん詰まった日々を、彼と過ごして来たからなのかしら?

 

それとも、私たちは、出会う前から、ずっとどこかで繋がっていたの?

 

そうだ、ソヒョンに何て伝えようか。

お姉ちゃんはソヒョンのママになるのよって

言ったら、ソヒョンは何て言うだろう。

 

 

「ああ、それと…忘れ物も渡さなくては。忘れ物は、こっちに入れたかな?」

 

ソヌはもう一方のポケットから、小さなクリスタルの瓶を取り出した。ごく薄いピンクバイオレットの香水のようだ。

 

「きれいなパフューム。これはどうしたの?」

 

「これは、スーパースペシャル。俺が調合した世界に一つしかない香水だから。」

 

「君の好きな、デインティ・ベスの成分を十分に使った、言うなれば『ベスの香り』だよ。新商品のスパイシーのラインより、もっと本物のベスの香りに近い組成になっている。調香師のリシャールにもお墨付きをもらった。」

 

「貴方って何でも出来ちゃうのね、理事様。

いつの間に作ったの?」

 

「年末から作業を始めて、一月中に作り上げた。リシャールが二月に来る事が決まっていたから、それに間に合わせようと思って、結構必死になってやったよ。」

 

そう言えば、研究所に、プロジェクトの交代で挨拶に行ったあの日、ソヌさんは実験室にいたし、ハン秘書さんが、理事は、最近何かの作業をずっとしているって言っていたけれど、このためだったのね。

 

ハジンは、ソヌお手製の香水を、手首にシュッと振り掛けてみた。甘くそして清廉な、最後にクローブを微かに感じる、デインティ・ベスそのものの香りが、たちまち、幸せな二人を、魔法のように包み込んだ。

 

「とってもいい香りに仕上がってる!」

 

「デインティ・ベスの中に埋もれているみたい。ソヌさん、ありがとうございます。

ベスの香り、ヒャンギ・ドゥ・ベスね?

でも、どうして、これが忘れ物なの?」

 

「それが、去年の秋頃かな?ちょっと変わった夢を見たことがあってさ。」

 

 

少し肌寒くなってきたので、ソヌは、彼の大事な姫が風邪をひかぬよう、ハジンを後ろから包み込むように抱いて、話を続けた。

 

 

高麗 ナレの日  

 

 

 

「その夢なんだけど、俺はなぜか、ずっと昔の世界にいるんだ。服装からすると、朝鮮王朝よりも前の…高麗の武将?それとも皇子か?

まあ、どっちでもいいけど…。髪も長くて後ろで束ねていて…。

君の誕生日のプレゼントを選びに、弟分みたいな友人と二人で市場を歩いているんだ。

バスケの選手みたいに背が高いやつで、恋敵ではないんだろうけど、彼も君へのプレゼントを贈るつもりなんだ。」

 

 「外国人の店で香油を売っていて、俺が買うかどうか迷っているうちに、その友人が先に何本も買ってしまって、俺は悔しい思いをしているのさ。

結局、俺は何も、君への贈り物を買えなかったわけだ。誕生日の日、仏頂面で、君のところに行くというわけさ。格好悪いだろう?」

 

 

  

 

 

 

「目が覚めてから思ったんだ。世界に一つしかない香水を作れば、絶対に誰かに先を越されることはないってね。夢の中のことであっても、君に関して、悔しい思いをしたままは嫌だったんだ。

よく、忘れ物を取りにいくって言うじゃないか、果たせなかった夢や望みのことを。その忘れ物ということ。この香水は、夢の中の俺の忘れ物というわけさ。分かった?」

 

 

ソヌは、お話は終わり、とソヒョンを寝かせつけるときみたいに、ハジンの頬に軽くキスをした。

 

 

 

 ソヌの話をじっと聞いていたハジンは、やや考え深げに言った。

 

「昔の世界だなんて、ちょっと不思議な夢ね。

もしかしたら、貴方の前世とか、ずっと祖先の誰かが果たせなかった夢を、今、貴方が代わりに果たしたのだとしたら、とてもロマンティックだわ。夢の中の貴方、彼の昔の思いは、ときを越えて叶ったことになるのだもの。

昔の世界の貴方が想っていたのは私なのね?」

 

「そう。君はお姫様風ではなくて、質素ないでたちだった。ちょっと気が強くて、可愛らしい女官かな?

プロジェクトの詰めの段階で、サンプルのやり直しもあったし、君への気持ちを言えないでいた頃だから、こんな妙な夢を見たのかな…ハジン、こっちを向いて。」

 

ソヌは、入園受け付けの小屋で、最初にタイマー設定してきたとおりに、ガゼボの照明が段々フェイドアウトするのを見て取ると、後ろから抱いているハジンを振り向かせた。

 

 

「ソヌさん、照明が壊れたみたい。」

「違うよ、照明がフェイドアウトするように、俺がタイマー設定しておいたんだ。これでいいんだよ。」

 

そう言いながら、ソヌはハジンの腰に手を回し、彼女をぐっと近くに引き寄せて、涼しげな微笑を浮かべて、恋人を、いや、未来の奥方をじっと見つめた。

 

「ソヌさん、貴方って、たまーに、策略家で、危険人物になるわ。」

「仕事は計画的にしなければ。そう教えただろう?さあ、もう、おしゃべりはやめて…

ハジン、愛してる。」

 

 

傍らでは、吹く風に花首を小さく揺らしながら、デインティ・ベスが静かに、ソヌとハジンの話を聞いていた。でも、このあと、バラの香りの中で二人が交わした、やや長めの熱いキスは、花びらをたたんでいるデインティ・ベスが多かったから、花たちは見ていなかったかも知れない。ミスター・アーチャーとエリザベスのときも、もしかしてそうだった?

 

 

 

 

 バラ園の照明を消すと、常夜灯と正面の街路灯だけが残って、満天の星空が、さらに一層、星のきらめきが際立って頭上に広がっていた。

 

ハジンは背伸びをして言った。

 

「ここはソウルと違って星がよく見える。ビーズを撒き散らしたみたい。ソヒョンに見せたらびっくりするでしょうね。」

 

「君は星座の話をいろいろ知っているじゃないか、ハジン。今度、ソヒョンにもお話してあげて。」

 

ソヌがそう言うと、ハジンはきょとんとした顔つきをした。

 

「うん?貴方と星の話をしたことがありましたっけ?」

 

「初めて会った日に、ここから帰るとき、今日は七夕だとか、月は上弦の月だとか、高慢ちきなカシオペア女王の話もしていたじゃないか。天体とか占いが好きな、魔女系女子かと一瞬思ったよ。」

 

「ああ、そうでした。理事様と一緒にいるのが、とっても間が持たなくて、あのとき、知っていることを全部しゃべったんだわ。恥ずかしい。」

 

 

車に乗り込むと、ソヌは着ていたジャケットをハジンに着せ掛けてやった。車のエンジンを入れると、彼は聞いた。

 

「お腹空いただろう?どこかでゆっくり食事していくか、それとも、PAでハンバーガーをさっさと食べて、ソヒョンが眠たくなる前に迎えに行くか、どうする?」

 

ハジンは、ソヌのぬくもりの残るジャケットに包まり、両襟を合わせながら言った。

 

「もちろん、ハンバーガーでお願いします。

ソヒョンに早く会いたいな。

ソヒョン何て言うかしら…。

もしかして、今日、ソヒョンにピンクのワンピースを着せているの?」

「そのとおり。実家で着替えさせた。」

 

「随分前からの戦略だったのね。

やっぱり、貴方の前世は、ちょっと策略家で、ちょっと危険な皇子様だと思う。」

 

「俺のどこが危険なんだ?」

「ときどき、私にとっては危険な人になるの。さっきだって…知りません。」

ハジンは、先ほどのキスを思い出したのか、少々頬を染めた後、

 

「あ、でも、実家に行くということは…今日これから、貴方のご両親にお会いすることになるじゃありませんか!困ったわ、どうしよう。」

ハジンは突然うろたえ出した。

 

星空のもと、恋人たちの楽しい会話は、尽きることがない。もしかして、それは、千年の昔の恋人たちも同じこと?

 

 

ペ、ガ、ス、ス …ペソス?

 

 

「大丈夫。今頃、パパが美人のママを連れてくるかもしれないって、ソヒョンがおしゃべりしているだろうから。」

 

「君を連れて行けば、両親には回りくどい説明はいらないだろう。今後の難関は、君の両親の方だろうな。」

 

「まあ、じゃあ、今度もまた、ソヒョンに先に話しちゃったの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

いにしえの高麗の世に

ときを越え、運命に導かれた

皇子と女官の美しい恋があった

 

 

二人はお互いのものであったはずなのに

皇子が皇帝になったとき

運命はそれを許してくれなくなった

 

 

美しい恋が悲しい恋になり

 

 

ときの狭間の再会は慰めを与えこそすれ

やはり、それは、美しく哀しいままだった

 

 

でも

皇帝の愛は真実だったから

女官の愛も真実だったから

 

 

彼のひそやかな魂は、ときを越え

思い切り愛せる平和の世で

彼女との再会を果たす

誰にも分からぬほど

ひそやかに

 

 

いにしえの愛

失われたかのように思った愛が

色あせることなく

ときを越えて、未来につむがれていく

 

 

 

もし、あなたの目の前の愛に

千年のときを越えた、もう一つの愛が

秘められているのだとしたら?

 

 

 

 

 

 

(完)

 

 

 

お読みいただいた皆さまへ

お付き合いいただいて

ほんとうにありがとうございましたドキドキ

ワン・ソ スのお二人ラブラブ そして 

ソヌ ハジンのお二人ラブラブ

ほんとうにありがとうビックリマーク

貴方たちが大好きよラブラブ

最後書きながら泣いちゃいました宝石ブルー

autrose930

 

 

 

 

ランキングにも参加しています

よろしくお願いします


にほんブログ村