プロジェクトは、当初掲げた目標をほぼ達成したと言える。

 

バラ由来の香料をオリジナルで精製し、それらを用いた基礎化粧品の新しいラインを立ち上げた。また、同時に、20~30代をターゲットとして、手ごろな価格のオードトワレも新規に発売することにこぎつけた。これらは、フルボトルの他に、違いを楽しめるように、ミニボトルのセットも発売することになった。

 

三つの香料を決定するための、顧客のモニタリングアンケートについては、ハジンもかなり関わったことになる。ハジンにとっては、入社以来、最も体力と気力を傾けて仕事をした1年6ヶ月だったかもしれない。

 

年が明けた。

新発売品目の決定について、CEOはじめ会社の経営層を前にして、プロジェクト側が報告する日になった。企画課長がプレゼンテーションを担当し、その他、企画部長はじめ本社側のプロジェクトメンバー全員が出席した。

 

ハジンも、主任たちのさらに後ろの席に縮こまって、居心地の悪い思いで座っていた。若手社員にとって、このような会社のお歴々と同席することは、滅多にあることではない。ハジンは入社式以来初めて、CEOにお目にかかったようなものだ。

 

今回のプロジェクトの成果は、香料研究所、とりわけユ理事の功績によるものが大きい。このことは周知の事実だが、彼本人はこの会議を欠席していた。大学の講義とこの会議がブッキングしてしまったのだ。

 

『プレゼン用の原稿は用意しておくから、その通り読んでくれればいい。もう商品になるのだから、誰が説明しても同じだろう。』

 

『何か質問が出ても困らないように、助手のキムさんと大学の部下一人を出席させるから』

当のソヌはあっさりしたものだった。

 

むしろ、会議を欠席する口実が出来て、ありがたそうにも見えた。自分が中心になって開発したのだという、貪欲さといったものが微塵も感じられないのである。

 

『バラから香料サンプルを精製するノウハウや、製品化するときのコンセプトなどを、理事自身が説明したら、もっとリアリティのある印象になっていたのに。』

 

ソヌが用意した原稿を、練習どおり、よどみなく読み上げる課長のプレゼンを聞いて、ハジンは内心残念に思った。 伯父のCEO始め大勢の偉い人達の前で、ソヌが専門家らしく、さりげなく流暢に説明して、皆の喝采を浴びるのをハジンは見たかったのである。課長が『いいとこ取り』したように思われて、ハジンは心の中でふくれっ面だった。

 

 

段取りどおりに会議は進み、経営層側の賛同が得られ、CEOからプロジェクトのメンバーたちに感謝の言葉があった。

 

スピーディに商品が開発されたのは、香料研究所が機能したことや、大学と有機的かつ効率的に仕事が出来たことが大きい、とCEOは満足そうな表情で最後に付け加えた。その言葉を聴くと、張本人のソヌが出席していないのが、返って際立つように思われて、ハジンはやっと機嫌を直した。

 

今後は、商品の安全性の確認や、販売、流通、宣伝といったことに論点が移っていくことになる。

 

 

 会議後、ハジンと肩を並べて歩きながら、ノ主任がホッとした気持ちで言った。

 

「何とか予定通り、今日の会議に間に合った」

「データのまとめやプレゼンの資料作り、研究所でスピード上げてやってもらいましたね」

 

「ユ理事には功労者として、今日の会議には是非出席してもらうべきだった。調整ミスだったな。社長としても、本音では甥をお披露目したかっただろうな。」

 

「ところで、後任のパク君と挨拶に伺う件、理事にアポ取ってくれた?」

「あ、いいえ、まだです。明日、研究所に行きますから、そのとき理事にお聞きします」

 

 

明日…明日はハジンのプロジェクトメンバーとしての最後の日だ。今後は、ハジンのポストを、他の若手社員が引き継ぐことになっていた

 

このことを、理事は知らないのだ。会社側の一番下のメンバーを誰が担当しようと、大きな変わりはないから、課長も主任も、後任については理事に何も話していなかったのである。

 

ハジン自身も、彼にそれを伝えられぬまま、とうとう今日まで来てしまった。

 

その理由は明白であった。

プロジェクトメンバーの交代という事実に、ハジンは正面から向き合いたくなかったからである。言葉に出してしまうと、理事とのつながりが切れることが、ハジンにとって現実となってしまう。

 

ハジンの心の中では、ソヌへの感情が、尊敬から、いつしか思慕に変わっていたが、表向きは上司と部下の関係でしかない。何も約束されているわけではないからだ。

 

とにかく、このままの状態でいたい、理事の側で仕事をしていたい、その思いがハジンに自己防衛的な態度を取らせた。

 

ソヌが自分をどう思っているか…。もし好意を持ってくれているとしても、それを彼がどう結論付けるかはまた別のことだ。だって、理事は自分よりずっと大人で、ソヒョンの父親で、そして恐らく、いやきっと、彼の心の中には、今でも奥様がいるはずだから。

 

消極的な気持ちの自分を責めるかのように、ハジンは、敢えて、そんな強がったことを考えてみた。

 

 

         チルソゲ・ソンムル

第9章 ④に続く

 

                                  

IUちゃんのOL風な画像がないかなーと思って

探してみましたが、意外とないのですね。

この話の最後の場面の表情はこんな感じかな

と思って、このお写真をお借りしました。

真ん丸い目がやっぱりチャーミングな方ですね。

 

 

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