ばなな と いちぢく
2
「今日は早く帰るよ。」
出かける前、珍しく羽歌にそう声をかけた。
「そう。いってらっしゃい。」
羽歌はいつもと同じように答え、カバンを差し出した。
俺が早く帰ってこようが遅く帰ってこようが、羽歌には関係ないらしい。
もっといい反応をひそかに期待していた啓介は少し落胆する。
亭主元気で留守がいい。
昔そんなコピーがあったが、まさか俺がそう思われるようになるなんてな。
車のエンジンをかけながら、啓介はバックミラーでぼんやりと我が家を見つめた。
白い外壁の周りには羽歌が丹精込めて育てている、俺にとっては名前すら知らない花々が咲き乱れ、色を添えている。
窓に下がるカーテンも清潔に洗濯され、日の光を室内にたくさん送り込んでいる。
もちろん窓ガラスも鏡のように美しい。
そう、この家は美しい。
羽歌のように。
俺の妻のように。
美しい。
車を発進させながら、啓介は自分の妻を頭の先から指の先まで思い出す。
濡れたようにしっとりと輝く黒髪と、手に吸い付く白い肌。
丸く大きな瞳に負けない口紅を引かなくても赤く誘う唇。
細く長い首の下に、水が溜まりそうな鎖骨。
その細さからは想像できない豊満な胸。
椀をふせたような胸、とは羽歌のためにあるような言葉だ。
ピンク色の乳首は可愛らしく震え、口に含むと、甘い。
そのまま平らな腹部を滑り落ちると、柔らかい茂み。
俺の大好きな匂いを放つ花がそこで待っている。
蜜を沢山含んで。
啓介は軽く勃起しだした自分に気がつかない。
そしてその下から生える2本の細い脚。
まっすぐ伸び、あの時には俺の腰に絡みつき、もっと奥まで入れてと引き寄せるためにしなやかに伸びている白い脚。
たどっていくと、綺麗にマニュキアの塗られた小さい指。
この指が大好きで、前戯として俺は1本1本丁寧に舐め上げる。
そうすると羽歌は可愛いで鳴くんだ。
ぞくぞくするあの声で。
親指から順番に口の中にいれる。
舌を使って舐めながら、吸いながら、足の指だけで羽歌の快感を引き出す。
すると薬指にたどり着く頃には、羽歌の蜜が遠目でもはっきり分かるほど滴り、桃色の乳首はそそり立って俺を呼ぶ。
ここを触って!
ここを舐めて!
ここに入って!
それを見ていると感じているのは羽歌のはずなのに、俺まで昇りつめていくような錯覚に陥る。
そう。
羽歌が感じることを俺も感じるんだ。
羽歌の快感は俺にとっても快感。
羽歌の悦びは俺の悦び。
羽歌の疼きは俺の疼き。
可愛い、俺の、羽歌。
啓介の頭の中の羽歌が怪しく肢体をくねらせ、声をあげる。
女の花がもっと奥に誘うかのようにうごめき絡みつく。
ああ、羽歌。
大好きだよ、羽歌。
「大好きだよ、羽歌。」
啓介の口からそう言葉がこぼれると同時に、啓介の白い液体も発射していた。
「・・・あぁ、またか。」
それで我にかえった啓介は、情けなく自分の濡れた下半身を見下ろす。
この1年というもの、出勤前・帰宅途中問わず、一人になり気が緩んでいるときに羽歌のことを考えると、いつもこうなってしまう。
自分の妻を思って射精してしまうなんて、俺はどこかおかしいんじゃないだろうか。
抱けもしないのに。
そこで啓介はふっと笑う。
こんなに恋焦がれている妻を、俺は抱けない。
抱けもしないのに・・・射精はするなんて・・・
おかしいのか、俺は。
下半身を濡らしたまま、啓介はハンドルをきつくきつく握り締める。
おかしいのか、俺は。
こんなに羽歌が、自分の妻が好きだなんて、おかしいのか。
そんな啓介の車の横を、何台も何台も先を急ぐ車が追い越していく。
流れていく車体の光が啓介の横顔を甘く横切った。
続きは明日・・・