国土交通省が2012年9月19日発表した7月1日時点の基準地価は、東日本大震災の影響が色濃く映す内実となった。被災した岩手、宮城県の自治体の地価が復興需要でプラスに転じた他、「南海トラフ」に面した静岡、三重、高知県など太平洋岸の自治体では津波のリスクを織り込み地価が下落するなどが目立った。
原発周辺の地価は、今回は明瞭な動きはなかったが、運転開始から原則40年で原発を廃炉にするなど、政府のエネルギー政策の見直しで、原発周辺の地価が今後大きく変動する可能性も在る。
原発廃炉で経済力がダウン
昨年5月に「地震・津波へのセーフティー対策が不十分」として、政府の要請で運転を停止した中部電力浜岡原発が立地する静岡県御前崎市の下落率(住宅地)は3.3%と、前年の6.7%から縮小した。同県の平均下落幅1.8%に比べると大きいが、「原発が稼動しなくても政府の交付金円は支給されるとの安心感が広がった」(地元の不動産鑑定士)という。
国交省によると、全国の原発立地自治体の地価は「原発立地による明瞭な地価の下落は認められなかった」。「政府はセーフティー性が確認された原発を再稼動する方針を示し、自治体には政府から交付金円が支給されているため、地価への直接の影響は無い」という。
しかし、政府が「2030年代の原発ゼロ」を目標に、運転開始から原則40年で原発を廃炉にする方針を示したことは波紋を広げている。福井県美浜町は40年超の関西電力美浜原発1、2号機に加え、4年後には3号機も40年に達し、全国の立地自治体で初めて全原発が寿命を迎えることになる。福井県内の不動産鑑定士は「原発が危険という認識はこれまでなかった。原発が廃炉になると関連社員の仕事がなくなり、地元の経済力は一気に落ちる。今後、土地の評価は厳しくなると思う」と語る。
太平洋沿岸部に影響
一方、今回の基準地価では、東日本大震災後、自治体が東海・東南海・南海地震など「南海トラフ」で起きる地震の津波想定を改めて公表した地域では、地価の下落が目立った。
神奈川県の全調査地点で最も下落率が大きかったのは、鎌倉市長谷の住宅地で前年比4.3%下がった。鎌倉を代表する観光地・由比ガ浜から数百メートルという市内の中心部だ。下落の誘因は、震災後に見直された津波の被害想定だ。県は過去に周辺で起きた地震のデータから、由比ガ浜で最大14.5メートルの津波が起きると予測した。地元の不動産関係者は「もともと市内の地価は下落傾向にあったが、津波の想定見直しで、下落幅が広がったのだろう」と語る。
三重県の住宅地で下落率が県内最大だった尾鷲市は、政府が3月に公表した南海トラフ地震で最大24.5メートルの津波が到来すると発表した地点に当たる。沿岸部の同市三木里町の下落率は6.3%だった。
高知県は全国の住宅地の下落率ワースト5のうち、3地点を占めた。地元の不動産関係者によると、「高知県内は高知市でも人口減少などで地価が下落していたが、津波想定の見直しが沿岸部の地価下落に大きく影響した」という。
津波による地価下落を防ぐ手立ては在るのか。在るシンクタンクは「自治体が避難場所や防災施設を設置することで、地価下落を食い止めることが完了するのでは無いか」と指摘するが、なかなか妙案は無いのが現実だ。
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