捨てた家(1)
「明日に向かって撃て」のことを書いた。
映画そのものも好きなのだけれど、僕が一番心を惹かれるのは音楽である。
一番有名なのは、B・J・トーマスが歌う「雨にぬれても」だ。
映画を知らなくても、この曲だけは聞いたことがある人も多いだろう。
でも、僕が一番好きなのは、その曲ではない。
映画の冒頭で流れる短いメロディ。
「捨てた家」という曲である。
映画が公開された頃、サウンドトラック盤のLPレコードを買った。
何度も聴いた思い出の一枚だった。
でも今は手元にレコードプレーヤーもない。
聴きたくなるとYouTubeを探すことになる。
ところが、以前はこの曲だけがなかなか見つからなかった。
ある日、偶然見つけたブログに、この曲が紹介されていた。
再生ボタンを押すと、あの懐かしいメロディが流れてきた。
うれしかった。
その日は何度も再生ボタンを押した。
ブログを読むと、作者は高校生の頃に自主映画を作り、その挿入曲に「捨てた家」を使ったという。
「この人とは感性が近いかもしれない。」
そう勝手に思ってしまった。
他の人のブログにコメントを書くことはない。
でも、その日は思わずコメントを書いていた。
ブログが書かれてから随分時間がたっていたので、返事は期待していなかった。
ところが、すぐに返信をいただいた。
しかも、僕のブログまで読んでくださっていた。
お会いしたこともない人なのに、一曲の映画音楽だけで人はつながるものなのだと、不思議な気持ちになった。
「捨てた家」は、ブッチ・キャシディとサンダンス・キッド、それに恋人の三人が、故郷を離れて南米へ向かう場面を思わせる題名である。
そして映画のラストへとつながっていく。
二人は最後、ボリビアの警官隊に包囲される。
銃を手に飛び出した瞬間、画面が止まる。
銃声だけが響き、バート・バカラックの音楽が流れる。
血も流れない。
だからこそ、その後の物語は、観る人それぞれが心の中で思い描くことになる。
同じ頃に公開された「俺たちに明日はない」も、最後は主人公の男女が銃で殺される。
でも、こちらは容赦なく銃弾を浴びる場面まで映し出される。
どちらも悲しい結末である。
それでも僕は、「明日に向かって撃て」の終わり方が好きだ。
画面が止まったあの瞬間から、二人が歩んできた日々が、まるで走馬灯のようによみがえってくる。
そして、その余韻に「捨てた家」のメロディが静かに重なるのである。
